瑞賢にとって“立派な婿”とは、何より学問のできる男でした。お金はいくらでもありますから、金持ちである必要などありません。そして、一人の若い貧乏学者が目にとまりました。さっそく会って、お金に糸目をつけない好条件を提示して婿入りを要請しました。相手にとっては夢のような条件ですから、一もニもなく受け容れるだろうと瑞賢は確信していました。
ところが、その学者は申し出をあっさり断ってきたのです。娘を気に入らなかったというわけではない。「自分はこれまで、自分の力でがんばってきた。しかし、ここで“逆タマ”に乗ってしまうと、そのおかげで出世したと言われてしまう。それがイヤだ」というのです。瑞賢はたいそう残念がり、何度も説得を試みますが、結局はあきらめざるを得ませんでした。その若い貧乏学者こそ、後の新井白石だったのであります。