ハーマイオニーの守しゅ護ご霊れいは、銀色に光るカワウソで、ハーマイオニーの周りを跳はね回っていた。
「ほんとに、ちょっと素敵すてきじゃない」ハーマイオニーは、自分の守護霊を愛いとおしそうに眺ながめていた。
「必要ひつようの部へ屋や」のドアが開いて、閉まった。ハリーは誰が来たのだろうと振り返ったが、誰もいないようだった。しばらくして、ハリーは、ドア近くの生徒たちがひっそりとなったのに気づいた。すると、何かが膝ひざのあたりで、ハリーのローブを引っ張った。見下ろすと、驚おどろいたことに、屋敷やしきしもべ妖よう精せいのドビーが、いつもの八はち段だん重がさねの毛糸帽ぼうの下から、ハリーをじっと見上げていた。
「やあ、ドビー」ハリーが声をかけた。「何しに――どうかしたのかい」
妖精は恐きょう怖ふで目を見開き、震ふるえていた。ハリーの近くにいたのメンバーが黙だまり込こんだ。部屋中がドビーを見つめている。何人かがやっと創つくり出した数少ない守護霊も、銀色の霞かすみとなって消え、部屋は前よりもずっと暗くなった。
「ハリー・ポッターさま……」妖精は頭から爪先つまさきまでブルブル震えながら、キーキー声を出した。「ハリー・ポッターさま……ドビーめはご注ちゅう進しんに参まいりました……でも、屋敷しもべ妖精というものは、しゃべってはいけないと戒いましめられてきました……」
ドビーは壁かべに向かって頭を突き出して走り出した。ドビーの自分自身を処罰しょばつする習しゅう性せいについて経験ずみだったハリーは、ドビーを取り押さえようとした。しかし、ドビーは、八段重ねの帽子ぼうしがクッションになって、石壁いしかべから跳はね返っただけだった。ハーマイオニーや他の数人の女の子が、恐怖と同情心で悲鳴ひめいを上げた。
「ドビー、いったい何があったの」妖精の小さい腕をつかみ、自じ傷しょう行こう為いに走りそうな物からいっさい遠ざけて、ハリーが聞いた。
「ハリー・ポッター……あの人が……あの女の人が……」
ドビーは捕つかまえられていないほうの手を拳こぶしにして、自分の鼻を思い切り殴なぐった。ハリーはそっちの手も押さえた。
「あの人って、ドビー、誰」
しかし、ハリーはわかったと思った。ドビーをこんなに恐れさせる女性は一人しかいないではないか。妖精は、少しくらくらした目でハリーを見上げ、口の動きだけで伝えた。
「アンブリッジ」ハリーはぞっとした。
ドビーが頷うなずいた。そして、ハリーの膝ひざに頭を打ちつけようとした。ハリーは、両腕をいっぱいに伸ばして、ドビーを腕の長さ分だけ遠ざけた。
「アンブリッジがどうかしたの ドビー――このことはあの人にバレてないだろ――僕たちのことも――ディーエイのことも」
ハリーはその答えを、打ちのめされたようなドビーの顔に読み取った。両手をしっかりハリーに押さえられているので、ドビーは自分を蹴け飛とばそうとして、がくりと膝ひざをついてしまった。
「あの女が来るのか」ハリーが静かに聞いた。
ドビーは喚わめき声を上げた。
「そうです。ハリー・ポッター、そうです」