「あと五分」
その声でハリーは飛び上がった。振り向くと、少し離はなれたところに、机の間を動いているフリットウィック先生の頭のてっぺんが見えた。フリットウィック先生はくしゃくしゃな黒くろ髪かみの男子の脇わきを通り過ぎた……本当にくしゃくしゃな黒髪だ……。
ハリーは素早すばやく動いた。あまりに速くて、もし体があったら机をいくつかなぎ倒していたかもしれない。そうはならず、ハリーは夢の中のようにするすると机の間の通路を二つ過ぎ、三つ目に移動した。黒髪の男子の後頭部がだんだん近づいてきた……いま、背筋せすじを伸ばし、羽は根ねペンを置き、自分の書いたものを読み返すのに羊よう皮ひ紙しの巻物まきものを手た繰ぐり寄せている……。
ハリーは机の前で止まり、十五歳の父親をじっと見下ろした。
胃袋の奥で興こう奮ふんが弾はじけた。自分自身を見つめているようだったが、わざとそうしたような違いがいくつかあった。ジェームズの目はハシバミ色で、鼻はハリーより少し高い。それに額ひたいには傷きず痕あとがない。しかし、ハリーと同じ細ほそ面おもてで、口も眉まゆも同じだ。ジェームズの髪は、ハリーとまったく同じに頭の後ろでぴんぴん突っ立っている。両手はハリーの手と言ってもいいぐらいだ。それに、ジェームズが立ち上がれば、背丈せたけは数センチと違わないだろうと見当がつく。
ジェームズは大おお欠伸あくびをし、髪を掻かきむしってますますくしゃくしゃにした。それからフリットウィック先生をちらりと見て、椅子に座ったまま振り返り、四列後ろの男子を見てにやりとした。
ハリーはまた興奮でドキッとした。シリウスがジェームズに親指を上げて、オーケーの合図をするのが見えたのだ。シリウスは椅子を反そっくり返らせて二本脚あしで支え、のんびりもたれ掛かかっていた。とてもハンサムだ。黒髪が、ジェームズもハリーも絶対まねできないやり方で、はらりと優雅ゆうがに目のあたりにかかっている。そのすぐ後ろに座っている女の子が気を引きたそうな目でシリウスを見ていたが、シリウスは気づかない様子だ。その女の子の横二つ目の席に――ハリーの胃袋が、またまたうれしさにくねった――リーマス・ルーピンがいる。かなり青白く、病気のようだ満月が近いのだろうか。試験に没頭ぼっとうしている。答えを読み返しながら羽根ペンの羽根の先で顎あごを掻かき、少し顔をしかめている。