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蛇神2-1-2

时间: 2019-03-24    进入日语论坛
核心提示:    2「これ?」 てっきり別れ話を切り出されると思い込んでいた日美香は、恋人が差し出した意外なしろものを信じられない
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「これ……?」
 てっきり別れ話を切り出されると思い込んでいた日美香は、恋人が差し出した意外なしろものを信じられないという目で見ながら言った。
 日美香の誕生日は九月である。今は四月だ。まさか誕生日のプレゼントというのではあるまい。
 それに、小さくてもダイヤの指輪というのは、ただのプレゼントにしては高価すぎる。
 だとしたら……。
「……給料の三カ月分って本当だな」
 佑介は、そんな独り言をもらした。その顔には、照れ笑いのような笑みがはじめて浮かんでいた。
 エンゲージリング?
 佑介の一言で、日美香はその指輪の意味をようやく理解した。
「でも、わたし、まだ学生よ?」
 嬉《うれ》しいというよりも、ただただ驚いて、日美香は言った。
「だから……今すぐにってわけじゃない。もちろん、日美ちゃんが卒業してからの話だよ。ただ、俺《おれ》がそういう気持ちでいるってこと、知って貰《もら》いたくて……」
 佑介は、あわてたようにそう答えると、こう続けた。
「実は、早ければ来年あたりから海外勤務になるかもしれないんだ。行けば、少なくとも三、四年は帰ってこれないかもしれない。それで、このへんでお互いの気持ちをはっきりさせておいた方がいいんじゃないかと思ったんだ。こういう話、今までまともにしたことなかっただろう?」
「わたし……電話貰ったとき、別れ話をされるのかと思ったわ」
 日美香がそう言うと、佑介はえっというように目を剥《む》いた。
「まさか。どうしてそんな……」
「だって、今年にはいってから急に仕事が忙しいとかいって会ってくれなくなったから。冷却期間をおこうとしているのかなと思って……」
「仕事が忙しかったのは嘘《うそ》じゃないよ」
 佑介はすぐにそう言ってから、
「ただ、冷却期間というか、気持ちを整理する時間を持とうと思ったのは事実だな。自分の気持ちがはっきりするまで会わない方がいいかと思ってさ……」
 と言い直した。
「海外勤務って、どこなの?」
「アメリカあたりだろう。デトロイトに支社があるからそこかもしれない」
「もし、そうなったら、わたしも一緒に行かなければならないの?」
「それは……きみ次第だよ。気がすすまなければ、日本に残ってくれてもかまわないし」
「つけてみてもいい?」
 日美香はそう言って、小箱の中から指輪を取り出し、それを左手の薬指にはめてみた。指輪はやや大きめだった。
「どう? サイズ、合わないかな」
 佑介は不安そうな顔になった。
「ちょっとぶかぶか。指輪を買うときは、前|以《もつ》てサイズを相手に確かめないとだめよ」
「と、取り替えてくる」
 佑介は、小箱を取り返そうと身を乗り出した。
「いいわよ、別に」
 日美香は笑った。
「……OKと取ってもいいのかな?」
 佑介は不安そうな顔のまま、おそるおそるという風に聞いた。
 日美香は黙って頷《うなず》いたが、すぐに、
「……でも」
 と、指輪に視線を落としたまま言った。
「でも、なに?」
「ご両親はこのことご存じなの?」
「もちろん話してある」
「反対されたんじゃない?」
「……少し早すぎるとは言われた。だけど、別に反対はされなかったよ」
「環境が……違いすぎると思うんだけど」
 日美香は俯《うつむ》いたまま言った。
「環境が違う? なんだ、それ?」
 佑介の顔に強《こわ》ばった笑いが浮かんだ。
「その……あなたとわたしでは育った環境が違いすぎるのよ。だから……」
 佑介の家は、父も祖父も曾祖父《そうそふ》も大学の教授という学者一家である。母親は料理学校を経営し、テレビにもちょくちょく出ることがある著名な料理研究家だった。
 高級住宅の立ち並ぶ白金台でも、ひときわ目を引く豪邸に住み、親戚《しんせき》にも、銀行の頭取だとか医者だとかが多いと聞いていた。
 いわゆる何代にもわたるエリートの家庭なのだ。
 そのことは話には聞いていたとはいえ、実際に、昨年のクリスマスに家に呼ばれたとき、日美香は痛いほど実感していた。
 彼の家族は一人息子のガールフレンドを気さくに暖かく迎えてくれはした。しかし、日美香は、かれらと自分との間には、目には見えないが、はっきりと明確な境界線のようなものが引かれていると感じた。
 だから、あのとき、ああだめだと思ったのだ。あまりにも違いすぎる。自分の育ってきた環境と、この人たちのそれとは。
 この恋はこれ以上の実りを見ることはないだろう……と。
「わたしのこと、どの程度、ご家族には話してあるの?」
 日美香は思い切って聞いてみた。
「どの程度って、きみから聞いたことは全部話したよ」
 佑介は、ややとまどったような口ぶりで言った。
「本当に全部? わたしが父親の顔もしらない私生児だという事も? 母が昔ホステスをやっていた頃、妻子持ちの男と不倫して、そのあげくに認知もされない子供を生んだということも? おまけに、その母は、今でも郷里で酔客相手の小さなスナックをやっているということも? 本当に全部ご両親に話してあるの?」
 日美香は妙に自虐的《じぎやくてき》な気分になって、そう畳みかけるように聞いた。
「葛原」
 佑介は、むっとしたような顔になると、日美香を姓で呼んだ。ふだんは名前で呼んでいるが、何か気に障るようなことがあると、急によそよそしい声になって、学生のときのように姓で呼ぶことがあった。
「前から一度言おうと思っていたんだが、きみは自分が私生児だということにこだわりすぎているんじゃないのか?」
「…………」
 日美香は何も言わず佑介の顔を見つめた。
「俺の両親はそんなつまらないことにこだわる俗物じゃない。そのことなら気にしなくていいよ。それどころか、おふくろなんて、話がそこまで煮詰まっているなら、一度きみのお母さんに会いたいと言っているんだ。それでどうだろう。できれば、ゴールデンウイークあたりに、もう一度、今度はお母さんも一緒に、うちに招待したいと言っているのだが。都合つかないだろうか?」
「一応……話してみるけれど」
 日美香は少し憂鬱《ゆううつ》な気分になって、呟《つぶや》くような声で言った。
 あの母が、あの家族に会うのか……。
 その光景を想像しただけで気が重くなった。
 日美香は、半ば無意識のように、ダイヤのついた指輪をくるくると指で回した。
 わたしの指には少し大きすぎる指輪……。
 それは、このあまりにも不釣り合いな結婚を象徴しているようにも思えた。
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