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落語百選105

时间: 2019-09-15    进入日语论坛
核心提示:藪入《やぶい》り昔、世の中が貧しかったころ、男の子は小学校を終わると、たいていみな奉公に出された。おもに商店の小僧として
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藪入《やぶい》り

昔、世の中が貧しかったころ、男の子は小学校を終わると、たいていみな奉公に出された。おもに商店の小僧として住みこむのが慣例《ならわし》で、定休日は、藪入りといって、正月と盆の十六日の年に二度だけ、それも奉公にいって三年間ぐらいは、里心《さとごころ》がつくというので、自宅の近所へのお使いにも、ほかの小僧をやるというようにして、親子は、三年目にやっと口がきけたという——その時分の人情を伝える噺《はなし》。
「なあ、おっかァ」
「なんだい?」
「金坊のやつ、よく辛抱したなあ」
「ほんとうだねえ。三年だものね」
「奉公は辛《つら》いといって、飛び出してきやしねえかとおもって、いい心配《しんぺえ》していたが、やっぱりおれの子だなあ」
「なんだねえ、おまえさんてえ人は、いいことがあると、おれの子だ、おれの子だっていうけれども、悪いことがあると、おめえが悪い、おめえが悪いって、勝手だったらありゃあしない」
「だけど強情なところはおれに似ていらァ。そんなことより、あしたは早く起きて、あったけえめしを炊《た》いてやんなよ」
「わかってるよ。冷《ひ》やめしなんぞ食べさせるもんかね」
「野郎、納豆《なつとう》が好きだから、納豆を買っといてやんなよ」
「あいよ」
「それからな、蜆汁《しじみじる》がいいから味噌汁をこしらえておいてな。刺身が好きだから二人前ばかりそう言ってやんな。天ぷらがいいぜ、ああ、鰻《うなぎ》もよろこぶぜ。それから甘《あめ》えもんも食いてえだろう。みつ豆に汁粉《しるこ》に牡丹餅《ぼたもち》なんか……」
「そんなに食べさしたら、お腹をこわしちまうよ」
「腹なんぞこわしたってかまわねえよ。うめえものを食わしてやれ。食うのがたのしみで帰ってくるんだから」
「奉公してたって、なにも食べずにいるわけじゃあないよ」
「そうだけどもな、おめえは奉公したことがねえから知るめえが、自分の好きなものが食えねえんだ。とにかくあした来たら、あったけえめしを炊いてやんなよ」
「わかってるよ」
「いまから起きて炊けよ」
「そんなことをしたら、冷《ひ》やめしになっちまうよ」
「冷やめしになってもいいからあったけえめしを食わしてやれよ」
「そんなわからないことを言う人があるもんかね」
「いま、何時だい?」
「まだおまえさん、三時半だよ」
「三時半? 昨日はいまごろ夜が明けたのになあ」
「なに言ってんだい」
「どうも今日は、いやに時計の針のまわりが遅いぜ。おめえ起きてひと周《まわ》り針をまわしてみろよ」
「そんなことをしたっておんなじだよ。もう少し寝《ね》なさいよ」
「ひと晩ぐらい寝なくったっていいやな。野郎だって来たい一心だ。枕もとへ帯だの着物だの下駄だの揃えておいて、寝られるもんじゃあねえや。倅《せがれ》がひと晩じゅう寝ずにいるんだ。親がぐうぐう寝ていちゃあつきあいを欠かァ、今晩ひと晩、お通夜だ」
「およしよ、縁起でもないことを言うのは」
「明日の朝来たら湯へ連れて行ってやろう」
「そうおしなよ」
「それから、奉公先ィ世話してくれた吉兵衛さんのとこへ顔を出させようじゃあねえか」
「そうおしなさい」
「浅草の美家古《みやこ》へ一ぺん連れてって見せてやりてえなあ。あの親方はたいへんかあいがってくれたからよろこぶぜ。それから観音さまへ詣りに行って、宮戸座へ芝居見に行って、いや野郎は花屋敷のほうがよろこぶぜ。いやあ浅草もいいが、浅草はいつでも行かれるから、ひとつ日光を見せてやろう。華厳《けごん》の滝、甚五郎の眠り猫、それから仙台の松島から塩釜へ行こう。そこまで行くんだからついでに平泉へも行って光堂を見せて南部の石割桜《いしわりざくら》を見せて青森へ行って善知鳥《うとう》神社へ参詣して、函館へ行って五稜郭を見せて、船へ乗って新潟へ行って白山《はくさん》公園を見せて、郷津《ごうづ》へ行って国分寺へ参詣して親不知を通って旧道を見せて、加賀の兼六園を見物して、越前の敦賀へ行って気比《けひ》の神宮へ参詣して、美濃の養老の滝を見せて、お伊勢さまへ参宮して、伊賀の上野へ出て荒木又右衛門の仇討の跡を見せて、近江八景を見物して、それから京都見物をして、大和めぐりをして、大阪へ出て紀州の和歌の浦を見て、高野山へ参詣して四国へ渡って、讃岐の金比羅さまから安芸《あき》の宮島へ出て、九州へ渡って……」
「ちょいとおまえさん、どこを連れて歩かせるつもりなんだよ」
「方々連れて歩くんだ」
「方々ったって、明日一日にそんなに歩けやあしないよ」
「歩けなくったって、そうしてえって話だあ」
「早く寝なさいよ」
「まだ夜が明けねえのか?」
「まだだよ」
「どうしたものかなあ? お天道さまが寝坊してんのかなあ?」
「いやんなっちゃうねえ、そんなことばかり言って……まだ四時半だよ、おまえさん、表はうすっ暗いよ」
「四時半? しめた、そんならもう夜は明けらあ」
「ちょいとおまえさん、いまごろから起きてどうするんだよ、電車もなにも通ってやしないよ」
「電車は通らなくったって、野郎、来たい一心で歩いて来らあ、めしを炊け、めしを」
「あきれたねえ、早すぎるよ」
「おれは表ェ掃除するから、おい、箒《ほうき》ィ出せ」
「いいよ、それじゃあ、あたしが起きるからおまえさんはもう少し寝なさいよ」
「いいってことよ。久しぶりで野郎が帰《けえ》ってくるんだ。きれいにしておいてやりてえとおもうからよ。早く箒を出せっ」
「あいよ」
「よしよし、おれが表を掃除するから、おめえは家ン中ァ掃除しろ」
「まるで気ちがいだね、この人は……」
長屋の近所の早起きの人がこれを見て、
「おい、善ちゃん、見てごらん。ふだん横のものを縦にもしない不精者の熊さんが、めずらしく表を掃《は》いてるぜ」
「あれあれっ、どうなってるんだ。不思議なこともあるもんだ……どうも陽気が変だとおもったんだ」
「ああ、わかった。あすこの家にァ金坊ってえ子供がいたじゃないか。今日は十六日だよ、藪入りで帰ってくるんだよ、きっと」
「ああそうか……あんな乱暴者でも子供はかわいいんだなあ……熊さん、お早う、たいそう早いねえ」
「エエ今日はやつの宿下がりで……」
「そうかい、そりゃおめでとう、来たら遊びにくるように言ってください」
「ええ、当人がなんと言いますかわかりませんが……」
「金ちゃん、大きくなったでしょう?」
「ええ、小さくなりゃあなくなっちまいますからね」
「ちょいとおまえさん、いい加減におしよ。せっかく遊びによこせと言ってくださるのに、そんな挨拶がありますか、ご近所の方がみんな笑ってるじゃあないか。こっちィお入りよ」
「笑ったってかまうもんか。近所のやつらめ、いやに世辞を言やァがって、おもしろくもねえ。そんなことより、おい金坊のやつ、いやに遅《おせ》えじゃあねえか。なにしてやがるんだろうな? ことによったらあすこの番頭、意地の悪そうな目つきをしてやがったから、あいつが出かけようって矢先に、あすこへ使いに行け、あれやれ、これやれ、余計な用をいいつけやがったんじゃあねえか。もう三十分待って来なかったら、あすこの家へ飛んでって、番頭の野郎、張り倒してやるから」
「いけないよ。なんてったって初めての宿下がりだろう。上の古い人たちから順に出してしまって、そのあとで、お店の掃除でもして、おしまいに出てくるんだよ」
「そんなひでえ話があるもんか。初めての宿下がりじゃあねえか。掃除なんぞ主人がすりゃあいいんだ」
「そう腹を立ててたってしょうがないよ」
「へえ、お早うございます」
「はい、どなた?……ちょっとおまえさん、見ておくれ、だれか来たから……わたしはいま、ご飯が吹いてきて手がはなせないからさ」
「ああ、いま見るよ……はい、だれだい?」
「こんにちは、ごぶさたをいたしました。めっきりお寒くなりましたが、ご機嫌よろしゅうございます。おとっつぁんにもおっかさんにも別にお変わりもなくなによりでございます。このあいだ、おとっつぁんがご病気だということを吉兵衛さんにうかがいまして、一度来たかったのですけれども、わけを話せば、ああいういいご主人ですから、行ってこいとそう言ってくださるのですけれども……ほかの人も行かずにいるのに、わたしばかりあんまりわがままだとおもったものですから、とうとう我慢をして来ませんでした。けれども心配でしたので、あの手紙を書いて出しましたが、あの手紙、読んでくださいましたか? おとっつぁん、あの手紙見た? ねえ、おとっつぁん、おとっつぁん」
「ちょっとおまえ、どうしたの? なんとか言っておやりよ」
「ま、ま、待ってくれ、口がきけねえんだ。へえ……へえ、どうも……ご親切さまにありがとうございます。本日はまた……ご遠方のところ、わざわざおいでいただきまして、ありがとうござんす……さて、はや……」
「なにを言ってんですよ、さあ、早くお上がり」
「ああ、ありがてえ。なあに、病気てえのはなあ、おれァ風邪ェひいたんだよ。いつも風邪ェひいたときにゃあ、熱い酒ェひっかけて、熱い湯へとびこんで、布団かぶって寝《ね》ちまえば治っちまったんだが……もう年齢《とし》なんだな。こんだそいつをやるってえと、四十度からの熱になってよ、苦しくてたまらねえんだ。二日も三日も熱が下がらねえもんだから、おっかァが心配してよ、医者を呼んでくれたところが、急性肺炎だっていうんだ。あとで聞いたんだが、一時はずいぶん先生も心配だったとさ。胸と背中へ辛子《からし》を紙へ塗って張りつけてな、苦しくって、苦しくて、まるで犬が駆け出したときのように、ハアハア、ハアハア、息ばかり切れるんだよ。それだもんだから、おっかァもびっくりして、もしものことがあっちゃあてんで、たった一人の子供だから、一ぺんだけ会わしておこうとおもって、おっかァから吉兵衛さんに頼んだんだそうだ。そうしたら、おめえから手紙が来て、お店のご用が忙しいし、ご主人やほかの人たちのてまえうかがえませんが、よほどのことがあったら電報くださいと書いてあった。それをおっかァが持って来て見せてくれた。見ると字がうまくなりやがった、おめえが書いたんじゃあねえと言うと、おっかァは、たしかにあの子だと言いやがる、あらためて見直すと、たしかにおめえの字だ。おれァうれしくなって、その手紙を持って飛び起きちまった。すると、とたんに肺炎が治っちまった。あれからっていうもの、風邪ェひくと、おめえの手紙を見て治してるんだ。ふふふふ、おれには、風邪薬なんかよりも、おめえの手紙のほうがよっぽどきくんだ、ああ、ありがてえ……おい、おっかァ、おい、そばにいろよ、どこへ行っちまうんだ? 心細いじゃあねえか。野郎、大きくなったろうな? え?」
「なに言ってるんだよ、おまえさんの前にいるからごらんよ」
「見てえけれど目が開《あ》けねえんだ。目ェ開けると、涙が出てきやァがっていけねえ。おめえ、かわりに見てくんねえ」
「なに言ってるんだろうねえ。しっかりおしよ。男のくせに……」
「うん、うゥん……お、おう、金坊……立ってみろ、立ってみろ……久しく見ねえうちに、大きくなりゃがった、おう、おっかァ、見ろよ、おれより丈が高いぜ」
「おまえさん、座ってるんじゃあないか」
「ああそうか、向こう向いてみろ、ひとまわりまわってみろッ」
「おもちゃじゃあないやねェ」
「ああ、よく帰ってきた。おめえが来るってんでな、おっかァ昨夜《ゆうべ》よっぴて寝ねえんだ」
「おまえさんが寝ないんじゃないか」
「おまえだって寝ねえじゃねえか。ほんとうに立派ンなってよかった。別に身体《からだ》も患わねえか……ありがてえ、ありがてえ。お内儀《かみ》さんも旦那もお変わりがねえか? そいつは結構だ」
「これは、家へ持って行けとおっしゃいまして、ご主人さまからお土産《みやげ》にくださいました」
「そうかい、どうもありがてえなあ。子供をこれだけ大きくしてくださるのは並大抵じゃねえ。その上に、これだけの物でも持たしてよこしてくださるんだ。……おーい、おっかァ、お礼に寄らなきゃあ悪いぜ。わざわざ行かなくっても、あっちィ行ったついでに勝手口からでも、ちょっと顔を出しておきなよ。毎度子供がお世話になりますってな。……このあいだ、おまえの家の前をおれが通ったんだ。お店をのぞいてみると、おまえがいたよ。……おまえより太った小僧さん、なんていうんだ? なに? 新どん? そうか。その小僧さんと二人でなにか引っ張りっこみたいなことをしていたから、よっぽど声を掛けようとおもったが、いや、そうでない、ここまで来て里心でもつかれちゃいけねえとおもって目ェつぶって駆け出しちゃった。大八車へぶつかって、気をつけろッてんでおどかされたよ。大笑いだ。なんだい、それは?」
「これはつまらないものですけど、わたくしがお小遣《こづか》いをためておいて買ってまいりました。お口には合わないでしょうが、おとっつぁんとおっかさんでおあがんなすってくださいまし」
「そうか、すまねえな、ええ、おっかァ、見ろよ。家にいた時分にゃあおれの面《つら》さえ見りゃあ、銭をくれ、銭をくれとせがんでいたんだ。それが三年経つか経たねえうちに、これだけのものを自分の小遣いで、おとっつぁんとおっかさん食べてくださいとよう、涙の出るほどありがてえなあ。むやみに食っちゃもったいないから、神棚へ上げておきなよ。後で長屋へ少しずつ配ってやんな。家の子供のお供物《くもつ》でござんすってな」
「そんなこと言う人がありますか。子供のお供物なんてえのが……」
「なんでもいいから湯へ行って来い。横町の桜湯を知っているだろう。普請をしてきれいになった。ちょいと着替えて行っといで」
「新しい下駄も買っておいたよ。それ履いてきな」
「よしよし、入り口に小桶《こおけ》が出てる。石鹸と手拭《てぬぐい》も新しいのを下《おろ》してやんな。湯銭だ……いいよ、いいよ。おれのほうで出すから心配するな、このごろは景気がよくなって、おまえが奉公に行く時分とちがって、おとっつぁん、銭ァあるんだ。湯銭ぐらいおれが出してやるよ。早く行きなよ……おい、おい、その犬にかまっちゃあいけねえよ。このごろ食いつくようになったから、子供を産んでから気が強くなったんだ。おまえがまだ家にいる時分にいた犬だあ。見ろよ、おっかァ、犬もかわいいな。知ってるよ、尾っぽを振って駆けていきやがる。ありがてえな。……おい、納豆屋さん、路地を入るのはちょっと待ってくれ。いまうちのやつが湯へ行くんだから。なに? 路地が狭いから言うんだ。こん畜生、張り倒すぞ。溝《どぶ》板を踏んじゃあいけねえよ。こっちを踏むと、向こうが跳ねるんだ。ここの家主ァ、店賃《たなちん》、取りやがって、溝板一つ直すことを知りゃあしねえ……なあおっかァ、もう帰《けえ》って来そうなもんじゃねえか」
「なに言ってんだ。いま出てったばかりじゃないか……でも、あのうしろ姿、おまえさんにそっくりだったよ」
「そうよ、おれの子だもんなあ。でもよう、おっかァ、最初《はな》、ガラッと障子を開けてみると、お辞儀していたときゃあわからなかったぜ。おれの考《かん》げえじゃあ、『おとっつぁんただいまっ』と飛びこんでくるとおもってたが、手をついて『めっきりお寒くなりました』ときやがったんで、こっちはぐっとつまっちゃって、なんとも言えねえんだ。『別にお変わりはございませんか』ときやがったぜ、おどろいたねえ。おれはどうなることかとおもったよ。ありがてえな、あれだけ行儀をおぼえやがった。てえしたもんだ……着物だって、いい着物だなあ、帯だって年季野郎の締めるもんじゃあねえよ……おい、なにしてるんだ? 子供の紙入れなど開けて見るなよ」
「だって土産を買っちまって、小遣いがなくなっちゃったんじゃないか?……あら、ちょいとおまえさん、たいへんだ」
「なにが?」
「紙入れの中に、五円|紙幣《さつ》が三枚も入ってるよ。……初めての宿下がりだよ。あれだけ土産なんぞ買って、まだ十五円もあるってえのは、多かァないかい?」
「さあ、そう言われてみれば少し多いな、野郎、当人にそんな悪《わり》い了見はなくとも、友だちに悪《わり》いのがいて欺《だま》されて、まさか、ご主人の金でも……畜生ッ、親の気も知らねえで、帰《けえ》ってきやがったら、野郎ッ、どうするかみやァがれッ」
「そんなことはないだろうけど、おまえさん、早まっちゃあいけないよ。帰ってきたら、よく聞いてからにおしよ」
「ああ、帰ってきやがった。こっちィ上がれ」
「結構なお湯でございました」
「この野郎、前へ座れ。しらばっくれるんじゃあねえ」
「え?」
「やい、ちゃんとネタはあがってんだ。てめえの紙入れに入っているありゃあなんだ? 五円|紙幣《さつ》三枚、ありゃあどうしたんだ?」
「なんです? わたしの紙入れェ開けて見たんですか?」
「なにッ、この野郎ッ……」
「あッ、痛いッ……痛いッ」
「ちょっとお待ちよ、おまえさんッ……金坊、さぞびっくりしただろうねえ。おとっつぁんは、気が短いから、口より手が先なんだから……あのお金、どうしたんだか、おっかさんに話しておくれ。……お待ちよ、わたしが聞くから……いいえ、あんまりお金が多いから、おっかさんが心配して、おとっつぁんに聞いてもらったんだよ。盗んだのでなけりゃいいんだよ。おとっつぁんは、貧乏していても、他人《ひと》さまのものは、塵《ちり》ッ葉一本|掠《かす》めたことはないんだよ。それだからむき[#「むき」に傍点]になって怒るんだよ。盗んだんでなけりゃあいいけれども、どうしたのか、正直に、おっかさんに言っておくれ」
「盗んだんじゃありません。じつはあれァ去年ペストが出ましたときに、鼠捕《ねずみと》りの懸賞付きのお布令《ふれ》がでましたので、わたしが河岸の土蔵で鼠を捕っちゃあ交番へ持って行って、そのうちの一匹が懸賞に当たりました。その懸賞金の十五円をもらって、ご主人に差し出すと、子供がこんな大金を持っているのはためにならないから預かっておくと言って、ご主人が預かってくださって今日宿下がりに店を出るとき、そのお金を家へ持ってって親たちをよろこばしてやれと言って、今日、ご主人からいただいてきたのです。盗んだのじゃありません。鼠の懸賞で当たったのです」
「まあ、そうかえ。わけも聞かないでぶったりして、金坊や堪忍しておくれ」
「へーえ、鼠の懸賞でとったのか。うまくやりゃがったな」
「おまえがご主人さまを大事につとめるから、こんなお金がいただけたんだよ」
「うん、そうだ。それも、これもチュウ[#「チュウ」に傍点]のおかげだ」
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