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落語特選24

时间: 2019-09-22    进入日语论坛
核心提示:汲み立て江戸っ子の芸事好きは、「小言幸兵衛」の家主はじめ「四段目」のでっち[#「でっち」に傍点]小僧に至るまでたいへんな
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汲み立て

江戸っ子の芸事好きは、「小言幸兵衛」の家主はじめ「四段目」のでっち[#「でっち」に傍点]小僧に至るまでたいへんなものだが、「寝床」の旦那のように義太夫、「蛙茶番」になると店内《たなうち》に舞台まで作って素人芝居を演《や》る。こうなると好きを通り越して、芸事|三昧《ざんまい》も本格的だが、なかには道楽に、町内の清元や小唄の稽古所へ通う連中もいて、それも一所懸命やろうというひとは、男の師匠に付くが、女の師匠に付くひとは、どうも芸事以外が目的で弟子になることが多いようで……。
そういう連中を経師屋連《きようじやれん》、張子連《はりこれん》と称し……芸よりも師匠をはり[#「はり」に傍点]にいく、よからぬ弟子で、なかには蚊弟子《かでし》というのがいて、夏、蚊のいる時分は夜なべが出来ないので、遊び半分に稽古所へ……涼みがてらに唄を習って、蚊がいなくなる時分には、秋口になって仕事も忙しくなるので、みんな通わなくなる。これを蚊弟子という。なかには冬まで居残りをするやつがいる。藪《やぶ》っ蚊っていうやつで……。
ひどいのは、狼連《おおかみれん》といって、師匠が転んだら食おうという……物騒な弟子もいたりする。
 師匠が女で、器量がいいと、目の色変えた男連中が寄ると触ると、はり[#「はり」に傍点]合う。
「この間《あいだ》から様子を見てると、あの喜三《きさ》っぺには四度《よたび》も稽古をしてやって、おれには一度しか稽古してくんねえ。どうも変だ」
「そう言えば、近ごろ、どうもおれにも当たりがよくねえんだよ。源さん」
「辰公、毎晩、横町の師匠ンとこへ行ってんのか?」
「行ってるとも、おらァ怠けやしねえ。たいていは行ってるが……ちっともおめえと会わねえじゃねえか」
「うんうん……おれは宵のうちに行くんだ」
「あ、そうか。おれは遅いんだ。それでおめえとかけちがうんだな」
「なんだ、おれァおめえがまるっきり見えねえから、よしちゃったんだと思ったんだ」
「よすもんか。行ってるよ」
「なにを稽古してるんだい?」
「『将門《まさかど》』よ」
「え? 『将門』?」
「なんだ、知らねえのか? ※[#歌記号、unicode303d]嵯峨《さが》や御室《おむろ》の花盛り、浮気な蝶の……って、あれだァ」
「おかしな声を張り上げるない。そんなことァおめえに聞かなくったってわかってらァな。おめえ、この春、あすこの師匠が看板を出したときに、入門《あが》ってすぐ稽古をはじめたのが『将門』じゃァねえか」
「そうよ」
「もう夏じゃァねえか、まだ習《や》ってんのかい?」
「そうよ」
「ことしの春から、この夏場までもち越すとは、少し長《なげ》ェな」
「長ェったって……へへへ、おれも感心してるんだ。こんなに長ェもんかと思ってね」
「てめえで感心してりゃァ世話ァねえや……どういうわけでそう長ェんだい?」
「どうも……もの覚えが悪いからなかなか先へ行かねえんだなあ」
「先へ行かねえったっておめえ、春から習《や》ってんだよ」
「そのうえ、おめえも知っての通り、おれは声がよくねえからなあ」
「おめえの声は人間に遠い声だ」
「よせやい。それで、節《ふし》がうまくいかねえのよ。調子に外れて、三味線に乗らねえからな」
「じゃあ、いいところはねえじゃァねえか」
「まあ、早く言えば……」
「遅く言ったっておんなじだよ……はじめのほうは出来上がったんだろ?」
「まだちょいとあやふや[#「あやふや」に傍点]だな」
「中程は?」
「ふわァッとしてね」
「しまいは?」
「まだ習わない」
「なあんだい、じゃァ形なしじゃあねえか」
「どうも喉《のど》のぐあいが悪《わり》いから、師匠がそう言った。『おまえさんは吹っ切るとよくなるよ』って……」
「いまのうちに吸い出し膏薬《こうやく》でも貼んねえ」
「ばかにするねえ。脹物《できもの》じゃァあるめえし、喉へ吸い出しを貼るやつがあるもんか……このごろは、おれは、声が悪《わり》いから、唄のほうは見込みがねえと諦めて、三味線のほうへ切りかえた」
「おめえが? そりゃァよしたほうがいい」
「なぜ?」
「だって、三味線なんてのはな、かわいい女が弾くとか、男でも乙な野郎が弾くとか、色気のあるもんだぜ。てめえが三味線抱えてる図《ところ》は、鬼が棕櫚箒《しゆろぼうき》を抱えたようだよ」
「鬼が棕櫚箒とは情けねえな。鬼が十能《じゆうのう》てえのは聞いているが、棕櫚箒はひでえな」
「ほかに呼びようがねえんだよ」
「だけどもね、辰ちゃんの前だけれども、三味線は得だぜ」
「なにが得だい?」
「唄の稽古のときは、真ン中に見台という邪魔物をはさんで、師匠と差し向いで習《や》らァな。そこへ行くと、三味線となりゃあ、見台を傍《わき》へすーっと退《ど》かして、膝と膝がつき合せになる」
「お調べがむずかしいな」
「咎人《とがにん》じゃァねえや……そればっかりじゃァねえぜ。わからねえところがあると、指をこうおさえて教えてくれらあ。へへへ……おんなし月謝ならおめえ、指へ触ってもらったほうが安いじゃァねえか」
「あれっ、変な勘定ずくではじめやがったんだな、どうも。それで三味線を習《や》ってんのか」
「うん、けど、この間、膝で師匠がおれを突いて睨《にら》んだぜ。『辰っつァんと一緒にはじめた子供でさえ、とうに二段も三段も上げちまったのに、まだ一段も上がらないとは、まァ、なんて情けない人でしょうね』って……『へえ、自分も情けないと思います』ってそう言った」
「なんだい、素直な野郎だなあ。で、なにを稽古してんだよ」
「あの、『一《ひと》つとや』……」
「一つとやァ?」
「あァ、※[#歌記号、unicode303d]一つとやァ、ッて……あれ」
「ばかな……なんだい、あれァおめえ、ちっぽけな子供だって弾くじゃねえか」
「それがむずかしいんだ」
「ほんとうに情けねえやつだな。おめえは二十六にもなって、六つか七つの子供にも先を越されて……自慢にならねえや。どういうわけで駄目なんだ?」
「どうも三味線てえやつは、指のほうを見ていりゃァいけなくなっちまうし、撥《ばち》のほうへ目をつけりゃァ上がお留守になるし、上を見りゃァ撥が留守になるし、なかなかむずかしいもんだ……この間、おれァ師匠に、撥でひっぱたかれた」
「そんなひでえことォしなくっていいじゃねえか。おめえは道楽で習《や》ってるんだから、いくらなんでも、撥でひっぱたくてえのは、少し乱暴じゃァねえか」
「もっともおれが悪かった」
「どうして?」
「なにね、そのとき、師匠が洗い髪だったと思いねえ」
「つまらねえことを言い出すなよ。洗い髪なんてどうだっていいやな。ひっぱたかれたわけはどうなんだ」
「それが、そもそもの発端よ」
「敵討だなあ、発端とくると……どうしたい?」
「色が白くって、薄化粧して、師匠は毛の性《しよう》がいいから、洗い髪にして、うしろへすーっと垂らしているのが、畳《たたみ》二|畳《じよう》ぐれえひきずって……」
「そんな長《なげ》ェ毛があるか」
「まあ、このくらい大袈裟《おおげさ》に言わなくっちゃァおもしろくねえや」
「つまんねえところへ景気をつけるない」
「紺しぼりの浴衣《ゆかた》に、お納戸献上《なんどけんじよう》の幅のひろい帯を締めてね、『さあ、辰っつァん、いつも二人でやっていては思うように覚えられないから、今日はあたしが前で聞いていますから、あなた一人で弾いてごらんなさい』とこう言うんだ」
「ふゥーん」
「『どうかお願いします』ってえと、師匠が見台を傍《わき》へ退《ど》かして、三味線を構えて、立て膝をしたんだけど、いい腰巻を締めてるんだ」
「腰巻なんざあ、どうだっていいやな」
「白|縮緬《ちりめん》の浜の一番という上等品だ。蚤《のみ》の糞《ふん》なんぞ一つもついていねえや。上のほうに金巾《かなきん》だの晒し木綿《もめん》はついちゃあいねえだろうと思……」
「そんなことどうだっていいやな」
「立て膝をしてるもんだから、風につれて端のほうがぺらぺら、ぺらぺら動《いご》くんだ。……それからね、おれが屈《こごん》で下から、ふーッと吹いた」
「ばかな真似するない」
「いくら吹いても、布《もの》がよくって重《おも》てえからなかなかこれが持ち上がらねえ。……それから、もういっぺん、試しにぷーッてんで、癇癪《かんしやく》持ちが火でも起こすように夢中でやってると、頭のほうがお留守になったからたまらねえや。そばにあった撥を取ると、いきなりぱッと来たから、『一本、参った』と頭をおさえた」
「なんだい、剣術だな、まるで……」
「『なにをするんですね、悪ふざけをするにもほどがありますよ』と、顔色を変えて怒ったから、『どうも、まことに相すみません』てんで、おれァ七つお辞儀をした」
「だらしのねえ野郎だね、こいつァ」
「もっとも、ひっぱたかれてもしょうがねえや」
「あきらめがいいな」
「お開帳をただ拝《おが》もうと思ったから、罰《ばち》(撥)があたるのもあたりめえだ」
「ひっぱたかれて、落とし噺をしてやがる、この野郎ァ」
「おう、どうしたい? みんな」
「おうおう、鉄ッつァんじゃねえか……上《あが》ンねェね」
「うん……また、あいかわらず師匠の噂で持ち切りだろ? へへ、無駄だから、よしなよしな」
「なんだい、無駄だってのァ」
「おれは、もう稽古に行かねえやい」
「どうして、鉄っつァん。師匠をしくじったのか?」
「そうじゃねえ。おめえたちはまだ知らねえのか?」
「なにを?」
「師匠にはちゃーんと決まった男がいるんだよ」
「おい、ほんとうかい? おう、知らなかったなァ」
「だから無駄だって言うんだ。おらァもうあきらめた」
「あきらめたァ? で、だれだい、その決まった男ってえのァ」
「建具屋の半公だよ」
「あの、色の生《なま》ッ白《ちろ》い、にょろっとした、あの野郎か……」
「そうよ」
「そんな筈はねえと思うがな」
「なぜ?」
「なぜっておめえ、師匠があんな半公みてえな野郎を相手にするわけがねえじゃァねえか。ま、師匠の情人《いろ》になろうというんなら、男前は二の次だが、まァ色の浅黒い、苦み走った乙な男で、喧嘩に強《つお》くて、度胸があって、達引《たてひき》がある、男の中の男というようなものでなければ、とても師匠の相手にはなるめえ」
「へーえ、そんな弟子がいるのかい? 源さん」
「ああ、いるとも」
「だれだい?」
「いま、おめえの前にいるじゃァねえか……」
「だれだろうね?」
「まあ……おれだ」
「なにを言やがンでえ……へへへ、男前は二の次だってやがる。さすがに気がさすとみえて二の次……二の次も三の次もあるかい。色の浅黒いって、おめえのァ浅黒いんじゃねえ、どす黒いんじゃあねえか。喧嘩に強いって、なにが強いもんか、こないだ、縁日で突き飛ばされたらおめえ、尻餅ついたじゃねえか」
「あのときは腹が下《くだ》っていたからだよ」
「下《しだ》らなねぇ野郎だなあ」
「洒落にならねえよ」
「そんなことはどうだっていいやな。半公と師匠の仲はどうなんだ?」
「そうよ。この間のことだが、おれが『師匠、おうちですかい?』と格子を開けたんだ。師匠の声で、『どなた?』と言うから、『へえ、わっちです』『あら、鉄っつァん、お入ンなさい』と言うが、障子《しようじ》を開けるに開けられず、暫時立ち往生……」
「師匠の家《うち》じゃァねえか。立ち往生するこたァあるめえ」
「ところがそうはいかねえんだ。半公の野郎が主人《あるじ》然として、高慢な面《つら》ァして、師匠と火鉢を間にはさんで、師匠がこっちにいて、半公が向うにいて、真ン中に火鉢だ。おもしろくねえじゃねえか、半公向うの師匠こっち、真ン中に火鉢……師匠こっちの、半公向うの……真ン中火鉢……」
「もうわかった。いつまでいったっておんなしだい、こん畜生っ」
「すると、師匠がお茶ァ注いで、『お茶をお上がんなさい』てんで出してくれたんだ。そいから、『へえ、ご馳走さま』と言って飲んでいると、半公の野郎が蓋物《ふたもの》を出しやがって、『一つおつまみなさい』って言《や》がン。『ありがとうございます』ってんで、見ると、甘納豆が入《へえ》ってる。つまんで一口食ったところが、こちこちしてやがってなんだか旨《うま》くもなんともねえんだ。半公の野郎は、向うの別の容器《いれもん》からそいつをつまんじゃァ食ってやがる……」
「甘納豆なんかどうでもいいや。で、どうなった?」
「やがて、半公のやつが、つゥーと立って縁側へ出たんだ。すると師匠が『ちょいと半ちゃん、お手水《ちようず》なの?』って、廊下へ出て、ぴたっと障子を閉めて、二人でもって、こちょ、こちょ、こちょ、なんか言ってやがる。どうもこれはただごとじゃァねえなと思うから、おれが、そーっと這って……」
「うん、廊下の話を聞いたか?」
「いや、半公の食ってた甘納豆を一口食ってみた」
「そんなものを食ってる場合じゃねえじゃねえか」
「半公の食ってるほうが甘くって、柔《やアら》けえんだ。あんまり旨《うめ》ンで、それからおらァ、夢中でみんな食っちまった」
「話はどうしたんだ?」
「半公の了見はよくねえよ」
「なんか悪い相談でもしてたのか」
「まずいほうをひとに押しつけるたあ、とんでもねえ」
「甘納豆なんざあどうでもいい……肝心の話は?」
「聞きそこなっちまった」
「ばかだね、こいつァどうも」
「おうおう、与太郎がいい塩梅《あんべえ》に来やがった……おい、与太」
「やあ……大勢集まってるな」
「こっちィ入《へえ》れ……おめえ、いま師匠の家《うち》にいるんだったな」
「うんうん、いるよ。女中さんがね、病気になってお家《うち》へ帰っちまったから、手伝いに行ってるんだ」
「てめえはいまあそこにいるんじゃあ知ってるだろうが、師匠ンとこへ泊まりに来る男がいるだろう?」
「ああ」
「だれだ?」
「うふっ、あたい」
「なに言ってやがるんだ……てめえのいるのはわかってるが、ほかに男が来るだろう? 半ちゃんがちょいちょい行くだろう」
「へーえ、よく知ってるね。うん、来るよ」
「師匠と仲がいいだろう?」
「仲がいいよ。でも、こないだ喧嘩した」
「なんだって?」
「なんだか知らないがね、半さんがお師匠《しよ》さんの髪の毛を掴んで、ぽかぽか殴った」
「ひでえことをしやがんな、畜生、てめえ、黙って見てたのか?」
「う、ううん、『およし、およし』って止めたんだ。そしたら、『てめえの出る幕じゃねえッ』てね、横っ腹蹴とばされて目ェ回しちゃった」
「だらしのねえ野郎だな、こいつァ」
「気がついたときは、もう喧嘩はおしまい」
「あたりめえだよ。いつまで喧嘩してるかい」
「暮がたになって、半ちゃんが謝ったよ」
「なんて?」
「『おれが気が短《みじけ》えから、あんな手荒なことをして、済まなかったなあ』って……」
「師匠は怒ってたろう?」
「う、ううん、『おまえさんが気が短いことを知ってながら逆らって、ぶたれたのは自業自得《じごうじとく》でしかたがない。嫌な人にやさしくされるよりも、好きな人にぶたれたほうがうれしいよ』って、そう言った」
「ちぇっ……それからどうした?」
「そしたら、半さんが『おれも虫のいどころが悪かったんで、つまらねえことに腹を立てて済まなかった』と、仲直りにお酒を飲みはじめた」
「うん」
「で、半さんが、『与太公、てめえは早く寝ろ』って言うから、『おれは眠くない』って、そう言った」
「ふーん、感心だな」
「そしたら、お師匠さんが、『そんなことを言って、また半さんが癇癪《かんしやく》を起こすといけないから、いい子だから与太さん寝ておくれ』って言うんだ。半さんの言うことは聞けないが、お師匠さんの言うことに逆らっちゃァ悪いと思ったから、『じゃあ寝ます』と寝たけど、眠くねえから、大きな目をあいて様子を見ていた」
「よしよし、えれえ」
「『おまえさん、悪いのはあたしだよ』『いや、おれのほうさ』とか、いつまでもおんなしことばっかり繰り返してんだよ」
「ほう、ほう、それからどうした」
「そのうちにほんとうに眠くなって寝ちゃった」
「寝ちまっちゃしょうがねえ」
「それからね、夜中に小便がしたくなったから起きた」
「なるほど……」
「すると、今度はまた喧嘩してたよ」
「へーえ、執念深えやつだな。また髪の毛を持って蹴とばしたりしてたか?」
「こんどは蚊帳の中で、取っ組みあってた」
「おーい、だれか受け付け代わってくれ、おらァ一人で受け切れねえから……」
「ばかだな。くだらねえことを言ってやがらあ。惚気《のろけ》の中売りをはじめやがって……おい、与太、おめえ、どこかへ行くのか?」
「これからね、涼みに行くんだ」
「生意気言ってやがらあ。てめえなんか涼みに行く面《つら》じゃねえや」
「柳橋からお舟に乗って、涼みに行くんだよ」
「ふーん、洒落たことを言ってやがる。だれだ、行くのァ?」
「お師匠さんとあたいとね、半さん」
「うんうん……それから?」
「そいだけ」
「なんだなァ、それならちょいと声をかけてくれりゃいいじゃねえか、こっちだってつき合おうじゃねえか」
「だけど……そ言ってたよ」
「なんだって?」
「あのゥ、『有象無象《うぞうもぞう》が来るとうるさいから……折角の涼みがなんにもならないから内緒にしておきよ』って……」
「なんだ、その有象無象ってえのは? いまさら口をおさえたって間に合うもんか……だれだ、その有象ってえのは?」
「あの人」
「だれだ、鉄公か?」
「うん」
「それだけか?」
「それから、あの人」
「辰公か?」
「うん。それに、あの人も……」
「留公か」
「そう……あとは、おまえが無象」
「なにを言やがンだ、こん畜生めっ」
「遅くなると怒られるから行くよ。さよなら」
「あれっ、行っちまいやがった。畜生め……おうおう、有象、こっちィ出ろ……おれが無象だ、畜生め。……おい、聞いたかい、太《ふて》ェことを言うじゃねえか」
「けッ! あきれ返《けえ》ってものが言えねえ。ふざけたことを言やがる。有象無象だってやがる」
「くやしいっ。はじめどんなざま[#「ざま」に傍点]をして来やがったんだ、あの師匠は。『あたくしは町内にお馴染もございません。みなさまのお力でなんとかして頂きとうございます』ってんで、挨拶に来て、頭ァ下げられたから、それじゃなんとかしてやろうじゃねえかってんで駆けずり廻って、弟子をつけて、師匠だとか蜂の頭だとか言ってられんのは、おれたちのおかげじゃァねえか」
「それはそうだとも、なあ」
「そうして骨を折ったてのァ、なんの理由《わけ》でみんな骨を折ったんだ。な? うーん……なんだ、うまく行きゃァ……なんとかならねえかという了見で、みんなだって世話ァしたんだ、そうだろ?」
「いやァ、おれァそんなこたァねえ」
「嘘ォつきやがれ、こん畜生め。……ま、そりゃァどうだっていいけどもよ。え? それならそれで、さてこういうことになりましたんで、みなさん、どうかいままで通りにご贔屓《ひいき》に願います、と言われりゃァ、こっちだっておめえ、しょうがねえ、我慢もしようじゃねえかよ、え?」
「そんなこと言われたって、おれは我慢できねえ。このまんま打《う》っ捨《ちや》っちゃおかれねえや。みんなで揃って、あすこの家を叩っ壊して、火ィつけろい」
「なあ、有象無象が来るとうるせえまで聞かされりゃあ、もうたくさんだ。だいたい師匠があれだけになったのも、こちとらが寄ってたかってしたんだ。なあ、そうだろう?」
「そうだとも……師匠のところをぶち壊してやろう」
「待て待て、怒るのはもっともだが、そんな乱暴をしたってしょうがねえやな」
「しょうがねえったって、黙っていたんじゃあ、まるっきり間抜けになっちまうじゃあねえか」
「だからよ、涼みに行ってるから、船のそばへ行って邪魔してやろう」
「泳いで行って水でも掛けるのかい?」
「河童《かつぱ》の敵討ちじゃァあるまいし。そんなことをするんじゃねえ。これから、おれが舟を用意するから、鳴り物を集めるだけ集めろ。音のするものならなんでもいい。半公の野郎がのど自慢で、師匠の三《い》味|線《と》で端唄《はうた》なんかやるにちげえねえから、こっちも舟へ乗ってって、むこうの舟のそばで、鳴り物を揃えてな、ばか囃子《ばやし》をしようじゃねえか。向うは騒々しくって、うるせえってんで、逃げるにちげえねえから、またあとをどこまでも追っかけてって、ドンチャカ、ドンチャカやって邪魔してやるんだ。そのうちに、半公が怒って面《つら》でも出しゃァがったら、師匠の見ている前で袋叩きにしてやろうってえ寸法だ。どうだい?」
「なるほど、そいつあいいや。よし、早速、支度に取りかかろう」
 みんなで示し合せて、柳橋から舟に乗って隅田川へ繰り出したが、師匠のほうはそんなことをちっとも知りません。
「ほんとにまァ、舟はいいわねえ。暑さ知らずでねえ……ちょいと与太さん、お燗《かん》ができたら、こっちへ持ってきておくれ……船頭さんもこっちィ来て、一杯おやんなさい」
「へえ、ありがとうござんす。いえ、もうここで結構でござんす」
「まあ、いいじゃァねえか。師匠もああ言ってるんだから遠慮なくこっちへお入ンなさい……ああ、ほんとうにいい涼みだ」
「ねえ、半さん、なにかお唄いよ」
「え? おれがかい? よそうよ」
「どうして?」
「なんだかどうも、咽喉《のぞ》の調子もあんまりよくねえようだな」
「折角《せつかく》、三《は》味|線《こ》を持って来ているんだからさァ、なんかお唄いなね」
「うーん、そうだなァ、じゃなにか……『戻橋』でもやろうか?」
「最初《はな》っから?」
「最初《はな》っからはなんだかどうも、涼みに来たような気ンならねえから……あすこがいいや、あの、※[#歌記号、unicode303d]たどる大路か……」
「あァあァ、三下《さんさが》りからね」
「うん、じゃァ……おゥ、与太郎与太郎、なんだぜおう、その食ったもの、汚ねえからそっちィ片付けとけよ」
「じゃ、いいわね」
「※[#歌記号、unicode303d]たどる大路ィに人影もォォ……お、与太郎、おう、徳利《とつくり》ィ早く出さねえと煮え燗なっちまうぞ……おい、船頭さん、いいから遠慮しねえで、こっちィ入ってなよ、暑いからよ……※[#歌記号、unicode303d]灯影もォ見えェずゥ、我が影をォもしや人ォかと驚きてェ……かつぎィ見おばァしのぶゥ月……」
「さあ、はじまった、はじまった。いいか、こっちもはじめるぜ。それっ」
どどんどんどんどんどん
ちゃんちきちゃんちきち
ぴきぴっぴ、ぴきぴっぴ
どこどんどん どこどんどん
すけてんてんてんてん
「おいおいおい、船頭さん、な、な、なんだ、あの騒ぎは?」
「へえ、隣りの舟でばか囃子をはじめましたんで……」
「これじゃあ涼みにならねえや。おい、舟をどっか、上手《うわて》のほうへやってくんねえ」
「へえ、よろしゅうございます……しかし旦那、いま時分、ばか囃子をするとは変わっていますね。花時分ならばよく囃子もしますが……ばかばかしい連中でどうも……へえ、この辺でよろしゅうござんすか?」
「ああ、ここならよかろう。おかげで唄がめちゃくちゃになっちまった」
「しょうがないねえ。じゃあ、気分を変えて、都々逸《どどいつ》でもおやんなさいな……じゃあ」
「※[#歌記号、unicode303d]人のォ噂ァもォ……七十四日ァ、明日はァ浮名のォ……たてェじィまァいィ……」
すけてんてんてん
どこどんどんどん
ぴきぴっぴ、ぴきぴっぴ
どん、どこどんどん
ちゃんちきちゃんちきち
「な、な、なんだ。またはじめやがった。うるせえなっ」
「与太さん、よそのお舟、覗くんじゃないの、およしったらっ」
「いやァ……ははは、お師匠《ツしよ》さん、おもしろいよ。有象無象《うぞうもぞう》がまっ赤ンなって、太鼓や鉦《かね》を叩いていらあ……やーい、有象無象っ」
「なにを言やがるんでえ。てめえじゃあ相手にならねえ。半公がいるだろ、半公を出せ、半公をっ」
「なんでえ、半公を出せだと……よし、出てやらあ」
「およしったらさ、相手は大勢なんだから、おまえさん、怪我でもしちゃつまらないからよしとくれよ」
「そうはいかねえ。出ろってんだから、出ねえわけにはいかねえや。打《う》っ捨《ちや》っといてくれ……さァッ、おれが出たが、どうしたってんだ?」
「あァ、面ァ出しゃァがったな……やい、この野郎」
「なんだ?」
「なんだァ、てめえがなにをしようとどうしようと、そんなことァこっちァ構ったことァねえが、それならそれで『このたびは、こういうことになりましたんで、みなさまがた、いままで通りよろしくお願い申します』と、なぜ、一言ぐらい挨拶をしねえんだ。蔭でこそこそ泥棒猫みてえな真似ェしやがるからこっちァ癪にさわるんだ。面ァみやがれ、この張ッつけ[#「張ッつけ」に傍点]野郎め……てめえもなんとか言ってやれ、おい」
「え?」
「なんとか言ってやれよ」
「うん……まあ、おれの師匠をよろしく頼まあ」
「頼んでどうする……おめえもなんか言ってやれ」
「言ってやろうか」
「言ってやれ、言ってやれ」
「やい、半公、この野郎、てめえなんざあ、なんだ、男だろう?」
「あたりめえじゃあねえか。もっとしっかり言ってやれ」
「やい、半公、てめえは太ェ野郎だ」
「なにが太ェ?」
「なにが太ェったって……三味線じゃねえぞォ……てめえもてめえなら、師匠も師匠だ。師匠なんざあ、まったくいい女だ」
「そんなとこで褒めるなよ。もっと、しっかり悪口言ってやれ」
「やい、この野郎、てめえなんざあ屋根船へ乗って、旨え酒飲んで、旨えものを食って、でれでれしやがって、畜生め、うまくやってやがら。あ、どうもおめでとう」
「ばかっ、めでたかァねえや」
「そっちはよかろうが、こっちは、この暑いのに、太鼓ォ叩くなんて……とほほほ……こんな情けねえ……」
「泣くなよ。みっともねえ」
「なにを言ってやンだい。師匠をどうしようとこうしようと、てめえたちにとやかく言われる筋合はねえや。くそでもくらえ」
「くそをくらえ? おうおうおう、おもしれえや、くそをくらうから持ってこい! くそを!」
そこへ、すーっと肥船《こいぶね》が一艘入って来た。
「どうだね、汲み立て、一杯《いつぺえ》あがるけえ」
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