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輪(RINKAI)廻01

时间: 2019-11-21    进入日语论坛
核心提示:──新宿・大久保午前一時──歌舞伎町の、色鮮やかというよりもけばけばしい街の灯は、女を怯《ひる》ませ、しばしその足をすく
(单词翻译:双击或拖选)
──新宿・大久保午前一時──

歌舞伎町の、色鮮やかというよりもけばけばしい街の灯は、女を怯《ひる》ませ、しばしその足をすくませた。
東京へ──。あてなく一心に思いつめ、たどり着いたところが新宿だった。駅に降り立ち、構内の人の流れに押し流される恰好で東口へと出る。そのまま確たる意志なく人込みに呑まれ、女は歌舞伎町へと迷い込んでいた。明確な決意はなかったにせよ、心のどこかではこの街を目指していたのかもしれない。しかし、女は臆し、たじろいでいた。
東京が、大都会だということは知っていた。なかでも新宿は、日本でも一番の大歓楽街。そこにならば自分が生きていく余地もあるのではないかと、ぼんやりここでの暮らしを思い描いてやってきた気もする。だが、現実に目にする歌舞伎町の灯はあまりに煌々として眩しく、毒々しすぎた。満艦飾《まんかんしよく》のネオンサイン、通りを埋めつくすように流れる車のライト、ところ狭しと並んだ店々の明かり。光、賑わい、喧騒、熱気……時刻は既に深夜でありながら、この街は深い夜の中にはなかった。通りに溢れかえる人もまた、ぎらぎらとして強烈に映る。どうしてだろう、人が人に見えてこない。
いきなり、どんと突き飛ばされるような衝撃が背中にあって、女はよろめき、手にしていたボストンバッグを地面に落とした。
「危ねえな。何ぼうっとして突っ立っていやがるんだ、この婆《ばば》ぁ!」
罵声に振り返ると、赤黒い顔色をした酔眼の男が、剣呑な表情で女を睨んでいた。「婆ぁ」と言われたのは、生まれてこのかた初めてのことだった。恐ろしさと衝撃とが、女の顔から色を奪う。男の背後では「子猫の部屋」と書かれたイメクラの派手な電飾看板が、電球をちかちかさせている。
「何だよ、口がきけねえのかよ?」
焦点の定まらぬ目が、なおも女を睨みつけている。緩んだネクタイ、乱れた髪、血走り濁った白目、酒臭い息。女は無意識に身を強張《こわば》らせた。
「あー、すんません、すんません」不意に脇から軽い調子の声がして、男が一人割ってはいってきた。「こいつ、今日いろいろあって、ちょっと酔っ払っちゃってるもんですから。──こら、大西、いくぞ、いくぞ」
よく見れば、地味な背広に身を包んだサラリーマンで、単に酔っ払っているだけのことだった。大西と呼ばれた男はけっと忌々《いまいま》しそうに唾を吐くと、相棒の男に腕を引っ張られるようにしながらも、素直に向こうへ歩きだした。ほっと小さく息をついてボストンバッグを拾い上げる。しかしこれからどこへゆこう。
「だけどさぁ、そんなところでボストンバッグなんかさげて突っ立っていたらカモられるよぉ」割ってはいってきた男のほうが、遠ざかりながら女に向かって声を張り上げてきた。「見え見えだもんなぁ。私はぁ、ぽっと出のぉ、田舎者代表でーす!」
二人は身を捩《よじ》りながら、げたげたと下卑た笑い声を立て、萎えたような足取りで雑踏の中へと紛れ込んでいく。顔に恥辱の血の気がさす。黙ってその場に佇《たたず》んでいることに耐えられず、女はあてどなくまた歩き始めた。駅の方へと、今きた道を再び引き返す気持ちにはなれない。街の奥へ奥へと進んでゆく。婆ぁ、ぽっと出の田舎者……男たちの言葉が胸の内に降り積もり、底に重たく沈澱していく。それが女の足取りを重たくし、身と心から力を削《そ》ぎ落としていた。
見ず知らずの人間に、いきなり身の深くまで切りつけられた心地がした。本当なら憤ってしかるべきだと思う。だが、都会の海に漕ぎ出したばかりの女は寄る辺なく、あまりに頼りない存在でしかなかった。一歩足を踏み出すごとにここで生きていく自信が失われ、失意ばかりが頭や背に、重たくのしかかってくるようだった。
いつしか女は賑やかな街の一画を抜け、ホテル街にはいり込んでいた。それがいかなる種類のホテルであるかぐらいは察しがついた。顔を俯《うつむ》き加減に足早に通り抜け、広い通りを渡ってまた前に進む。しかし、またホテル街が続く。女の足取りが再び早くなる。その目の前に、ふいっと黒い影が躍り出た。ぎゃっと叫びかけた声が咽喉《のど》の奥で凍りつく。
チッ、と舌打ちをして肩を竦《すく》めたのは相手のほうだった。背の高い、金色の髪をした彫りの深い顔だちの女だった。外国人。彼女はすぐにまた暗がりに身を寄せて、素知らぬ振りで女をやり過ごした。女は一瞬、今自分が目にしたものが夢かと思った。モデル顔負けのプロポーションをした異国の姫君。そんな美しい女が深夜の道端に立ち、昔ながらに男の袖を引いている。
細い道の先に通りの明かりが見えた。安堵するより肩からがっくり力が抜けて、一度に疲れが噴き出した。ようやく通りに出はしたが、次は右に行こうか、それとも左へ行こうか。心もからだも行き惑う。
女は通りで真っ先に目についた喫茶店に飛び込んだ。少し気を落ち着けてこの先のことを考えたかった。心だけではなく、足も疲れていたし咽喉も渇いていた。
「いらっしゃいませ」
入口で、半分|気後《きおく》れしたように突っ立っている女を招くように、ママとおぼしき女が声をかけ、水のはいったグラスとおしぼりをカウンターの上へ置いた。それに誘われるように女はカウンターへ歩み寄り、腰を下ろした。コーヒーをと、何も考えることなく注文する。時計を見る。既に深夜の一時をまわっていた。にもかかわらず店内には当たり前のように人がいて、話をしながらコーヒーを飲んだり煙草をふかしたり新聞を読んだり……思い思いに夜の時を過ごしている。店の中には、コーヒーの香とともに澱んだ夜が垂れ籠めている。頭では、こんな暮らしが日本のどこかにあるということは承知しているつもりだった。それでいて、やはりこれが日常ということが、まだ現実として肌に馴染んでこない。
「そのバッグ、こっちに預かっておきましょうか?」
不意にカウンターの内側のママに声をかけられて、女は我に返った。
「そんなところに転がしておいたら、誰かがさっと店にはいってきて、持って行かないとも限らないから」
あっ、と足元を見る。ボストンバッグは椅子の下に投げ出されたままだった。その中には、人からすればささやかなものでも、女にとっては全財産というに等しいものが収まっている。女は慌ててバッグを抱え込んだ。
「大丈夫です。膝の上に置いておきますから」
「ならいいけど」
ママはいかにも関心のなさそうな表情で言い、カウンターの上に濃い琥珀色の液体を抱えたコーヒーカップを滑らすように静かに置いた。顔に険はない。が、どこか肚《はら》が坐ったような気配のするママだった。無造作に束ねた長い黒髪には幾筋かの白髪が混じっているが、別段気に留めているふうもない。その白髪さえもが個性のひとつになっているようなお洒落っぽさ……たかだかそれぐらいのことにも女は半ば圧倒されていた。
コーヒーを飲み、疲れと衝撃を自分の中から少しずつ追い払う。それでも、まだ三十にもなっていないというのに婆ぁと言われた衝撃は、容易に女の中から消えていかなかった。そこから発する失意が、これからのことを考える意欲に水を差す。
時間ばかりが過ぎていく。先のことは何ひとつとして決まらない。一歩店を出れば、元通りの迷い子だ。
「あの……」一時間以上も黙していた後、女は思い余ってママに声をかけた。
「はい?」素っ気ない顔、色のない声。
「この辺に、女一人でも泊まれるホテルか何かありませんか?」
「あるわよ、ビジネスでもカプセルでも」
「どこか紹介していただけないでしょうか?」
ママの頬と口許の筋肉がわずかに歪み、うっすら苦笑の色が滲んだ。冷笑だったかもしれない。
「どこだって、行きさえしたら泊めてくれるわよ」
「それじゃ、場所だけでも教えてください」
「いいけど、ビジネスとカプセル、どっちにするの?」
言葉につまった。カプセル、と言うだけの勇気がない。泊まってみるだけの意気地もない。
「この時刻だもの、何なら朝までここにいたら? 朝六時までの営業だから。ボックス席が空いたらそこで突っ伏して眠るのもよし、週刊誌を読むのもよし……別にうちは構わないわよ」
女は黙ってママの顔を見た。
「朝になったらマックかロッテリアにでも行って朝ごはんを食べて……あとのことはそれから考えたら?」
見抜かれている、と思った。当然かもしれなかった。千鳥足の酔っ払いにさえ、ぽっと出の田舎者と言われた身だ。
「マックもロッテリアもこの通りの左側、新大久保の駅の方向にあるわ」
「新大久保……。ここ、歌舞伎町じゃないんですか?」
ママはちょっと呆れたように目を見開いた。「ここはもう大久保。あなた、それもわかってなかったんだ」
「新宿駅で降りて歩きまわって……だから私、てっきり歌舞伎町のはずれあたりかと」
「歌舞伎町のはずれねぇ、それはいいわ」ママは乾いた声で笑った。「確かにここは歌舞伎町の場末、おこぼれに与《あずか》って成り立っているような街だものね」
歌舞伎町に職はあっても歌舞伎町では暮らせない。大久保は、歌舞伎町で喰っている人間には、暮らすにちょうど都合のいい街。そんな人間たちを当て込んで、一晩中店を開けているところも多い。ここは歌舞伎町で燃え残ってこぼれ落ちた欲望が、そのまま雪崩れてきている街でもある──、ママは、そんなことを女に語った。
「私さっき、すごくきれいな女の人を見ました。それもホテル街で。外国人……ああいう人もいるんですね」
「だったらきっとコロンビア人でしょ。十七、八年ぐらい前からだったかな、いや、もっと前からか。地方からばかりじゃなくて、中国、台湾、韓国、東南アジア、それに南米からもたくさん人が流れてくるようになったわね。みんな歌舞伎町に落ちる金を拾いにやってきて、この大久保で暮らしてる。昔っからそういう町なのよ。お江戸の昔からね」
大久保は市ヶ谷御門の外、したがって、もはや江戸とはいえない。甲州街道から内藤新宿を通って江戸へはいる人と川越街道から江戸へ向かう人、その人の流れのちょうど狭間《はざま》にあった町。だから大久保は、江戸、内藤新宿の場末の町だ。
「昔、このあたりには武家屋敷が多くあったらしいけど、それだって下屋敷。しかもあなた、ここらには犬小屋が建てられて、江戸じゅうの犬が集められていたっていうんだからどう考えたってろくなところじゃない」
「江戸じゅうの犬が、ですか?」
「そう」ママは頷き、銜《くわ》えた煙草にカチッとライターで火を点けた。「ほら、生類憐みの令だったっけ? 人間より犬を大事にしろとかいうおかしなお触れがあったでしょ? そのお蔭で江戸市中の犬を放っておく訳にもいかなくて、抜弁天《ぬけべんてん》のあたりに犬小屋を作ってそこに犬を集めた訳。あ、抜弁天って言ってもわからないか」
要は場末たることを運命づけられた街、とママは、煙草の煙を吐き出した。江戸や内藤新宿から溢れた人が、やってきては吹き留まり、また消えていった通りすがりの町、と。
「そういう因縁を持った土地なんでしょ。私なんかここで店をやっていても、いつも駅のプラットホームにいるような気分、まるでキヨスクのおばちゃんよ。わけのわからない人間がどこからかやってきては消え、後から後から流れてきてはまたいなくなっていく。流れ者みたいな人間が、いっとき暮らすには都合がいいのね、きっと。近頃じゃ言葉も通じないような人間も多くなって落ち着きゃしない。今や国籍不明の雑踏の街ね、ここは」
人間の吹き溜まり、流れ者がいっとき暮らしを営む街……もしかすると自分も風に煽られるように、この街へと流れ着いたのかもしれない、と女は思った。ここでならば、私も暮らしていけるかもしれない──。
「ここは人が暮らせる街ではあっても、生活を営むところではないわね」女の心を読んだようにママは言った。「私はそう思うわ」
それじゃママさんは? と、聞かずもがなのことを口にする。ママはちょっと肩を竦め、私は大久保の生まれ、ここがふるさとなんだから仕方がないと、面白くもなさそうな顔をして答えた。
「ま、いずれにしても新宿なんてひどい街よ」ママは手にしていた煙草を灰皿に押しつけるように揉み消して言った。「遠目には活気があって華やかに見えるけど、中にはいってみるとささくれ立っていてえげつなくて。歌舞伎町のネオンの灯りなんか水面に映ったあやかしの灯りみたいなもので、実体なんかありゃしないんだから。その下の暗い海の底で暮らしていけるのはグロテスクな深海魚だけ。こんな街に長居をすれば、深海魚に喰われるか自分がおどろおどろしい深海魚になるか……どっちにしたって女にとっては、あんまり幸せなことじゃないわね」
大久保の生まれというのは嘘、ママもまた深海魚──、カウンターの向こうのママの顔を見ているうち、だんだんとそんな気がしてきていた。いくら向かい合ってこうして話をしていても、いっこうに顔が見えてこない。網膜に像は映っても、実体のある人間の顔とは思えない。
「ありがとう、ママ」女は言った。「私、ママさんと話ができて、お蔭で何だか落ち着いたみたいです」
新宿駅に降り立ってから、まだ何時間と経っていない。けれどもそのわずかの時間に、ひどくたくさんのことを学んだような気がした。欲望、憂さ、憤り、酒や薬で得た浮かれ調子……ここは箍《たが》のはずれたエネルギーが剥き出しのまま溢れ、渦巻いているような街。たとえ見かけは華やかだろうと、棲息しているのはグロテスクな深海魚ばかり。信じられるものは自分。それにお金──。
女は椅子から立ち上がった。手にはしっかりと、体温の移ったボストンバッグを抱えていた。
「行くの?」ママが言った。
「はい。そろそろ夜も明けてきそうだし、ママのお勧めどおりそこらでハンバーガーか何か食べて、まずは腹拵えをすることにします」
深夜の一杯のコーヒーには、平気な顔をして郷里の喫茶店で飲むそれの三、四倍の値段がつけられていた。勘定を済ませて店を出て、女はいっぺんあたりをぐるっと見まわした。白々と、夜が明けつつあった。車の少ない明け方の通りは、闇が剥げたぶん薄青く、いくらか幻想的でもある。が、その清澄な青の中にも、通りに吹き溜まる塵芥が浮かび上がって見えた。通りの向こうのマックの明かりが目にはいった。次はあれを目指して行こう。
通りを渡る前、女は振り返って、今出てきたばかりの喫茶店の名前を見た。
「25時」──。どこかで聞き覚えのあるような言葉。二十五時、喜びも哀しみも超越した無色の時……違っただろうか。
この先何度切りつけられてももう傷つくまい、心にそう誓いながら通りを渡る。今夜不意打ちのように切りつけられた痛みは、今もって女の中から消えてはいなかった。決して心地よい感触ではない。けれどもその痛みが、これから自分を支えていってくれそうな気もしていた。
もうじき、この街に朝がやってくる。昨日とは、別の一日。
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