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輪(RINKAI)廻02

时间: 2019-11-21    进入日语论坛
核心提示:     1 新大久保の駅のホームに降り立った時、香苗《かなえ》は思わず大きく息を吸い込んでいた。鼻孔に雪崩《なだ》れ込
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 新大久保の駅のホームに降り立った時、香苗《かなえ》は思わず大きく息を吸い込んでいた。鼻孔に雪崩《なだ》れ込んでくる埃っぽくてざらついた空気の中に、紛れもないふるさとの匂いを鋭敏に嗅ぎつけて、懐かしさを覚える。次の瞬間、そんな自分に対する苦笑が、顔の上に滲み出していた。汚れきった空気を肺いっぱいに吸い込んで、懐かしさを覚えている自分が滑稽だった。排ガス、塵、埃。エアコン、換気扇の吐き出す濁った熱気。饐《す》えたような食べ物の臭気。油、大蒜《にんにく》、韮《にら》の匂い。人の体臭とコロンの混じり合った粘っこい薫り……。ただただ雑多な都会の匂いが凝縮され、あたりにたなびき沈澱しているだけのこと。にもかかわらず香苗の鼻は、東京の他の街と似たり寄ったりのこの街に、大久保固有の匂いを嗅ぎ分ける。
香苗は、物心ついた時からここにいた。嫁ぐ年までここで過ごした。たとえそれがいかにふるさとと呼ぶにふさわしくない街だとしても、やはり大久保は香苗にとってはふるさとだった。
駅の階段を降りて改札を出る。いきなりの人込みと混雑に、少しばかり圧倒される。駅前で催し物でもあるのかと思うような人の頭、頭、頭。目の前の大久保通りは車ですっかり埋め尽くされて、まるで流れの滞った川のようだった。昔から、人の多い街ではあった。が、こんなにも人で溢れかえっていただろうか。しばらく田舎の暮らしに埋没していたから、今の賑わいがことさらのように思われるだけなのかもしれない。ただ、かつてよりも街に色がついたことは確かなような気がした。昔大久保は、もっと灰色で、殺伐としていた。あたり一面、砂塵に覆われているような色のない街だった。それにくらべて今の大久保は、色に満ちた街になった。原色の看板、カラフルな服装の若者、華やかな化粧をした娘、黄色、金色……思い思いの色に染めた髪。染めずして髪の色も肌の色も違う人間たちも、街には多い。以前よりも間違いなく国の種類がふえた。中国、台湾、韓国、タイ、フィリピン、マレーシア、バングラデシュ……ブラジル、コロンビア……国籍不詳。それがこの街の体臭を、より複雑なものにしている。いつの間にか大久保は、アジアの体臭を漂わせる街になった。ただし、大陸のアジアの都市の街角に感じられるような熱気やエネルギーはない。色目は派手になったけれど、昔ながらの病み疲れたような灰色の倦怠が、依然として街の底流に流れている。香苗に言わせれば、それが紛れもない大久保の匂いというものだった。
「おかあさん、ここが東京?」
かたわらの真穂《まほ》の言葉に我に返る。ちょっと手を握るようにして、香苗は自分の掌の中の真穂の手の感触を確かめた。出ていった時は一人、帰ってきた時は二人。それがたぶん一番大きな違いだった。
「そう。ここが東京よ」真穂に答えて香苗は言った。
ふうんという、納得のいかぬような真穂の声。見るといくぶん唇を突き出して、眉間と眸《ひとみ》にも疑わしげな昏《くら》さを湛えていた。そうかもしれなかった。真穂がテレビで目にしていた東京は、新宿は新宿でも大久保ではない。それに渋谷、原宿、六本木……画面の中の東京は、もっとお洒落で垢抜けていて、洗練された活気を呈していた。
「そうね、ここも東京」香苗は言い直した。「いろいろなところがあるのよ、東京はとっても広いから」
「ここも東京……。だったら真穂たち、これからここで暮らすの? 東京のここで?」
「そう。ここには、真穂のおばあちゃんが住んでいるからね。当分は、真穂とおばあちゃんとおかあさんと三人で、この街で暮らしていくのよ」
真穂の眉根は寄ったままだった。眸からも訝《いぶか》しげな色が消えていかない。まだ七歳、小学校の一年生。新学期が始まれば、小学校二年生になる。いずれにしてもまだ小さな子供。けれどもこういう時真穂は、まるで大人みたいな顔つきをする。きめが細かく、抜けるような白い肌、金色の産毛、深く黒い眸、赤い唇……。私の天使──、香苗は、真穂の艶々とした黒い頭を撫でた。それから、また真穂の手を掴み直す。
「さ、いこうか。おばあちゃんも、きっとそろそろ来る頃だろうと思って待っているわ」
消毒液の匂いのするガードを潜り、香苗は大久保通りに沿って歩きだした。真穂を連れ、おまけに荷物も持っているものだから、人と肩を触れ合わさずに舗道を歩いてゆくのはひと苦労だった。呆れるほど、人は後から後から湧いてくる。しかもすれ違う人の半分以上と言っていいぐらいに、顔立ちがどこか日本人とは異なって見える。ペゴッパーチューゲッソヨ……アライナッカー? ペンパイノイ……舗道には香苗には意味をなさない言語が飛び交い、耳を掠めて通り過ぎてゆく。
じきに右手が重くなり、真穂の足取りの鈍りを香苗に伝えた。覗き込むと、雑踏と喧騒にうんざりしたような真穂の顔があった。長旅で、この子も疲れているのだと思う。茨城から東京、たいした距離ではない。それでも真穂にとってはやはり旅に等しいものだったろうし、これを契機に自分の暮らしが大きく変わってしまうことを、この子も肌で感じていたにちがいない。そういうことには、真穂はすこぶる勘がよい。
「もうちょっとだから頑張ってね」
真穂は返事をしなかった。相変わらず暗い不機嫌な顔のまま、ただしそれ以上は足取りを鈍らせることもなく、黙って手を引かれる方向へ歩き続ける。香苗はふと、胸に痛みに似たものを覚えた。親が子供の人生を翻弄することだけはすまいと、ずっと思い続けてきたというのに。
途中、大久保通りを左に折れ、住宅地の中へはいった。そこから少し奥へと歩く。と、香苗の目の中に、見覚えのある風景が開けてきた。細い通りを挟んで並ぶ住宅、アパート、電信柱の向こうの木の緑……その右側の五階建てのマンション、「大久保東レジデンス」──。
「さ、着いた。ここよ、おばあちゃんのマンション」
香苗の言葉に、真穂は四角いコンクリートの建物を見上げた。顔の上には、先刻よりも更に深い不満と落胆の色が、翳となって落ちている。香苗も、しばし黙ってマンションの建物を眺める。灰色をしたマンションの建物は、ところどころ塗装が剥げ、ひび割れたかさぶたのような亀裂がはいって浮き上がっていた。各部屋の窓の軒下からは、汚れた汗の滴りのような跡が、黒く長い尾を引いている。緑の苔が浮いた壁、ペンキが剥げて錆の入った手摺り……。
嫁ぐ前まで、香苗も暮らしていたマンションだ。が、十年ぶりに見るそれは、かつてとはずいぶん面変わりしてしまっているようだった。小学校五年生の時に、同じ大久保町内のアパートからここへ引っ越してきた。あの時は、確か新築のマンションだったはずだから、できておよそ二十余年。それだけの歳月が流れれば汚れもしようという思いと、その倍も老け込んでしまったという思いとが、胸の中で入り交じる。昔から人の出入りの激しいマンションだったから、香苗の知っている住人など、恐らくもう誰も残っていないだろう。場所柄、ここは賃貸マンションだ。そこに母の時枝は、二十年以上もの間住み続けている。払い続けた家賃の総額で、どこか別のところに、マンションの部屋ひとつぐらいは買えただろうに。
「行こうか」心持ち力を失った声で香苗は言った。「おばあちゃんのうち、このマンションの四階だから」
各戸のメールボックスの並んだ、エントランスとも呼びがたいような入口部分の空間、エレベータ前のスペースは昼だというのに灯りが欲しいぐらいに薄暗かった。砂埃でざらざらした床、その上に落ちて散らばったチラシ、煤けて黒くなった象牙色のエレベータの扉……閑散とした中に荒廃の匂いが漂う。都落ち──、思わずそんな言葉が頭に浮かぶ。馬鹿な、と、すぐさま香苗はそれを打ち消した。茨城の田舎町から東京のど真ん中へと戻ってきたのだ、都落ちとは正反対ではないか。けれども、敗軍の将であることは事実かもしれない。いや、将でもない。
鉄の箱のような旧式のエレベータに乗り込む。仰々しいボタン、ウィーンと唸る電気音は、工場のリフトを想起させた。
四階に着き、時枝の家、香苗にとっては実家に当たる四〇五号室へと歩きだす。電話では何度か話をしている。しかし時枝に会うのは、実に十年ぶりのことだった。
ほんの少しだけ緊張した指で呼び鈴を鳴らす。はぁい、という返事があってからやや間があり、やがて静かにドアが開いた。そのドアの隙間に、十年の歳月を経た時枝の顔が覗いた。最初に目と目が合い、それが瞬時に互いと互いを確かめ合う。刹那、母娘の無言の情のようなものが通い合うのを香苗は感じた。
「おかあさん……ただいま」気持ち頭を下げながら、香苗は言った。「本当に、ご無沙汰しました」
おかえりと、時枝は香苗に向かって笑みを浮かべて見せた。目尻にできる皺が、以前よりも濃くなっていた。頬からも肉が削げ落ち、三、四キロは痩せたような印象だ。昔から長くしていた髪もいくらか元気を失って、少し荒れているように見える。時枝も今年、六十になる。しかし、想像していたよりは歳をとっていない。瞳にも輝きがあるし、肌にも艶がある。表情にも勢いがあって、そこここに若さの名残りの如きものがうかがえる。このマンションのくたびれ方よりはずいぶんとマシ……そのことに、香苗は安堵を覚えた。喧嘩もした。親不孝もした。憎んですらいた。けれども時枝と香苗は実の母娘。虫のいい話かも知れない。しかし一度は嫌ったその血の繋がりが、今は無条件に縋れる唯一の絆のように思われる。
「真穂、おばあちゃんよ。ご挨拶なさい」
香苗は自分のうしろに半分隠れるようにしていた真穂を、促すように前へ押し出した。生まれたばかりの頃、写真は一、二度送ったことがある。しかし、時枝が真穂をじかに見るのは初めてのこと、当然真穂もまた、時枝に会うのは初めてだった。
おばあちゃん、こんにちは──、真穂がぺこりと頭を下げた。時枝は笑みを浮かべ、身を屈めるようにして、真穂の顔を覗き込んだ。まるでこの時を人生の楽しみに待ちかねていたというような横顔。
「いらっしゃい、真穂ちゃん。よく来たわね。さあ、中に……」
目の錯覚だろうか、言葉半ばにして時枝の顔に浮かんでいた笑みが潮が退くようにすっと内側に引き取られ、見事に消えてゆくのを見た気がした。しかも笑みの消えた直後の顔は、凍りついたように冷えた色をしていた。香苗の神経がぎくりとなり、反射的に身が強張った。どうして?……香苗は時枝の顔をじっと見た。打ち返す波のように、一度引き取られた笑みが、改めて時枝の顔の上に浮かんできた。とはいえ最初の笑みからすれば残滓のようにわずかな量でしかなかったし、加えてどこかぎこちなかった。
「いつまでもそんなところに立っていないで、とにかく中にお上がりなさいな」急速に色の失せた声で時枝は言った。
香苗は頷き、まず真穂を部屋に上がらせ、続いて自分も靴を脱いだ。半分中に上がりかけ、ちらりとうかがうように時枝に目をやる。時枝は二人に背を向けて、早くもお茶の支度にとりかかっていた。香苗は黙ってその後ろ姿を見た。背中に目鼻はなく、表情もない。が、時枝の背は閉ざされて、いくぶんひきつったような顔をしているように香苗の目には映った。
何もかも思い過ごし、この頃私は少し神経質になり過ぎている──、香苗は心の内で首を横に振った。真穂は美しい子供だ。親の贔屓目《ひいきめ》を差し引いても、かなりの美少女の部類にはいるだろう。真穂に初めて会った人は誰しも、その子供離れした美しさに驚きの表情を見せるほどだ。孫はただでさえかわいいという。それが見た目にもこれほどかわいらしかったらなおのこと、いとおしいと思わないはずがない。真穂を見る時枝の顔に能面のような冷やかなものを見たと思うのは自分の見間違い、あるいは僻《ひが》み根性というものだ。
香苗は気分を切り替えて、目を部屋の中へと移した。この部屋の天井は低く、あまり日も差し込まない。現にそこに身を置いてみてから、香苗はそのことを思い出した。その部屋の薄暗さが、重たるく頭の上にのしかかってくる。それを振り払おうとするかのようにちょっと深く息を吸い込み、香苗は意図して明るい笑みを浮かべ、弾むような声で真穂に言った。
「真穂、ここがね、おかあさんが育ったうちなのよ」
返事は、なかった。真穂も時枝も、香苗の存在を忘れたかのようにそれぞれ香苗に背を向けて、自分自身の中にいる。鈍色《にびいろ》に曇った部屋の空気の中で、とってつけたみたいな香苗の明るい声だけが浮き上がり、行き場を失い、惑っていた。
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