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暗鬼30

时间: 2019-11-23    进入日语论坛
核心提示:     30 法子が体調の変化に気づいたのは、それから一ヵ月も過ぎて、秋も深まった頃だった。「二ヵ月ですって」産院から帰
(单词翻译:双击或拖选)
 
     30
 法子が体調の変化に気づいたのは、それから一ヵ月も過ぎて、秋も深まった頃だった。
「二ヵ月ですって」
産院から帰宅して家族に告げると、彼らは歓声を上げて喜んでくれた。ふみ江などは嬉《うれ》しさのあまり目を潤ませて「よかった、よかった」を繰り返す。法子は、優しい気持ちになって、そんな家族を見回した。
「身体を大切にしなきゃね」
「そうよ。もしものことがあったら、それこそたいへんだもの」
「元気な赤ちゃんを産んでくれよ」
家族は銘々《めいめい》に思いついたことを言い、きっと元気な子に違いないと頷《うなず》きあっている。名前も考えなければならないだろう、子ども部屋はどうしようか、産着《うぶぎ》や玩具《おもちや》の話まで出て、法子達は声を上げて笑っていた。誰かが、子どもが生まれたら、庭の隅に何かの木を植えようと言い出した。
「いい考えだね。何の木がいいだろう」
「昔だったら、それこそ女の子の場合には桐《きり》を植えたものだけど」
「木を植えるって──あの──裏の、土の色の変わってるところに植えるんですか」
ふいに乾いた声が響いて、法子達は一斉に顔を上げた。虚《うつ》ろな表情の知美が、色のない唇を噛《か》んで立っていた。
「知美、起きても平気なの?」
法子は笑顔で彼女を見た。朝食の後、彼女は気分が悪いと言い出して、再び部屋にこもってしまっていたのだ。知美は固い表情のまま、わずかに頭を傾けた。
「皆が笑ってるのが聞こえたから──それに、お洗濯ものを干さなきゃ」
無表情のままでそれだけを言うと、彼女はふらふらと部屋を出ていった。法子は、一瞬他の家族と顔を見合わせて、小さくため息をついた。ほんのひと月の間に、あんなにも変わってしまうなんて、皆が予想しないことだった。
「仕方がないわ。心に鬼が住み着いてるんでしょう」
「完全に、疑心暗鬼にかかってるのね」
公恵とふみ江が諦《あきら》めた笑みを浮かべる。
「時間の問題よ。お姉ちゃんだって、あんな顔をしていた頃があったじゃない」
綾乃に言われて、法子はああ、そうだったかと思い出した。そういえば、そんなこともあった。あの頃の法子といったら、いもしない鬼を恐れ、ただの夜の闇《やみ》にさえ怯《おび》えていたものだ。そう、そんなこともあった。
「時間の問題、ね」
法子はゆっくりと頷いて、自分も庭に向かった。背後から「気をつけてよ」「無理をしないで」という声がかかる。振り返って、にっこりと笑うと、家族は全員が、満足気に頷き返してくれる。
──私の赤ちゃん。皆の、赤ちゃん。
まだ、まるで膨らんでいない腹をさすりながら、法子は庭に出た。案の定、知美は裏庭の片隅にいた。以前よりも幾分小さくなったように見える背中を見せて、彼女は膝《ひざ》を抱えてしゃがんでいた。
「どうしたの、そんなところで」
後ろから声をかけると、彼女はぎょっとした顔で振り返る。
「別に──ただね、どうして、ここだけ色が違うのかなあって、いつも思うものだから」
それから、知美は「ねえ」と言いながら、半ば怯えた目で法子を見た。法子は小首を傾《かし》げ、柔らかく微笑《ほほえ》みながら眉《まゆ》をわずかに動かした。
「おめでた、なんでしょう?」
「そうなの、二ヵ月ですって」
「あの──」
彼女の目はうろうろと宙をさまよっている。そして、幾度か法子の上で止まり、また逸《そ》れる。法子は「どうしたのよ」と笑いながら、彼女の肩に手を置いた。
「和人さんの──彼、との子よね」
「当たり前じゃない」
法子は、思わず声を出して笑ってしまった。
「そう──よね」
この家に来て、まだ日の浅い彼女は、今は一階の座敷に寝起きしている。佐伯という男と共にこの家に来て、その翌々日にも彼女はここへ来た。彼女は玄関口で、青白い顔で佐伯がいなくなってしまった、どこかへ行ってしまったのだと言った。その夜以来、彼女はこの家に住み着いた。本人には、その理由が完全には分かっていないだろう。ただ、法子達が一緒に住もうと言っただけのことだと思っているに違いない。
だが、法子にはよく分かっていた。今、彼女は、時間に対する感覚をまるで狂わせてしまっている。何しろ、彼女は法子が受けたものよりも、ずっと強力な毒草を絶えず取らされているのだ。その結果、彼女は体調を崩し、現実と幻の間を往復し、そして、外へ出て働く気力を失っていた。
「彼──戻ってくるかしら」
知美は落ちていた小枝で、土をわずかに掘りながら呟《つぶや》く。法子は一つ深呼吸をして、彼女の背を軽く叩《たた》いた。目は、彼女の手元に集中していた。だが、枯れて乾ききった小枝は、土を掘るところまでもいかず、ほんの少し力を入れただけで、ぽきりと乾いた音をたてて折れてしまった。
「考えすぎないことよ。結論の出ないことをあれこれ考えても、仕方がないわ」
知美は力なく頷《うなず》き、やがて、肩を震わせて涙をこぼした。乾いた土の上に、小さな黒い点が出来た。
「私達がいるじゃない、ね? 知美を一人ぼっちになんか、させやしないわ。私達だって、心配に決まってるじゃない? うちから帰っていった人が、それきり消息不明になったなんて、ただごとじゃないと思う。たった一度、お目にかかっただけだけど、素敵な人だったことはよく分かるもの。だから、ね、一人で悩まないで」
法子の言葉に、知美は何度も頷き、そして、さらに激しく肩を震わせ、涙を流した。
「皆、こんなによくしてくださるのに──私、駄目な人間だわ。皆を、何となく疑ってた。おかしいなんて、思ってたの」
彼女は声を詰まらせながら言った。法子は、彼女の背中を辛抱強くさすり続けた。
「誰にでもあることよ、不安にならないはずがない、心配に決まってるものね。私達のことなんか、気にしないでいいのよ」
法子はさらに囁《ささや》いた。顔を歪《ゆが》めて涙をこぼしている知美の向こうに、闇《やみ》の中で笑っている鬼が見える気がした。あの鬼を取り除かなければならない、あの鬼から知美を守るのだ。そうすれば、彼女は素晴らしい家族になり得るはずだった。
「そうだ、今度、蓼科の別荘に行かない? そろそろ紅葉が見頃だと思うのよ、ね?」
法子は知美を支えながら、ゆっくりと立ち上がった。知美は鼻をすすり上げながら「蓼科?」と言う。法子は、ゆっくりと、優しい口調で別荘の話をしてやった。
「本当にいいところよ。私は、もう少ししたら悪阻《つわり》も始まるだろうし、安定期に入るまでは難しいかもしれないけど──でも、よかったら、和人さんや綾乃ちゃん達と、皆で行っていらっしゃいよ。絶対に気持ちが休まるわ」
知美はわずかに驚いた顔になったが、それでもおとなしく法子に従った。並んでゆっくりと歩きながら、法子は彼女の体温を感じていた。もうすぐ、彼女も法子達の体温を感じることだろう。そして、本当の家族になっていく。
「空気も違うし、それこそ、自然に囲まれて、本当に心が安らぐわ。そうなれば、知美だって少しは体調がよくなるかもしれない。何しろ、お医者様だって、どこも悪くないって太鼓判を押してるんだから」
「私──いつ、お医者さんに行ったんだったかしら」
「なに、言ってるの。先週、日赤に行ったでしょう?」
「──そうだったかしら──そうね、行ったのね」
「そうよ、そこでお医者様に言われたんじゃない。心配いりませんよって」
「そうね、そうだった」
法子は、知美と連れだって、ゆっくりと庭を回った。心の中では、土に戻りつつある知美の恋人に別れを告げ、「邪魔をしないで」と囁きながら、彼女の腕をもって歩いた。
すべて、うまくいく。そして来年、梅雨《つゆ》の晴れ間をぬって夏の雲が広がる頃、法子は母になるだろう。家族の愛に包まれて、この志藤の家の血をより濃く、純粋なかたちで受け継いだ、素晴らしい子どもが生まれるに違いない。
──皆によく似た、私の赤ちゃん。
ひとりでに笑顔になりながら、法子はゆっくりと歩いた。何か言いかけて顔を上げた知美は、そんな法子の笑顔に出逢《であ》い、一瞬戸惑った表情になって、それから弱々しく顔をそむけてしまう。
知美が何を疑っているのか、法子には十分に分かっていた。だが、子どもの父親が本当は誰なのか、そんなことは何の問題にもなりはしなかった。要は、この家族の絆《きずな》を守り続けていくこと。そして、子どもを一人っ子などにしないことだ。その為には、知美にも協力してもらう必要もあるかもしれない。近い将来、彼女は喜んで法子の子の兄弟を産もうと言うに違いなかった。そして、家族はますます繁栄していくだろう。
「きっと、素晴らしいことがあるわ。これから、まだまだ」
無意識のうちに自分の腹を撫《な》でながら、法子は歌うように呟いた。秋の風はすがすがしく、金色の糸を引いて吹きすぎて行くように見えた。
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