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歌月十夜101

时间: 2019-11-28    进入日语论坛
核心提示:*s124□遠野家1階ロビー翡翠を探して屋敷を歩き回るが、翡翠の姿は何処にも見当たらなかった。「おかしいな。翡翠がいそうな場
(单词翻译:双击或拖选)
*s124
 
□遠野家1階ロビー
翡翠を探して屋敷を歩き回るが、翡翠の姿は何処にも見当たらなかった。
「……おかしいな。翡翠がいそうな場所は全部回ったんだけど」
客間にも物置にも書斎にも廊下にも屋根裏にも翡翠の姿はない。
こうなるともう何処にいるのか手がかりはないんだけど……
「—————————あ」
ピンと来た。
もしかすると、この屋敷で一番翡翠とは縁がないあそこにいるのかもしれない————

□遠野家のキッチン
 台所にやってくる。
この時間は無人の筈の台所には、難しい顔で調理台に立っている翡翠がいた。
「やっぱりここにいたのか翡翠」
【翡翠】
「あ————」
見られた事が恥ずかしいのか、翡翠はおどおどとまな板の上のモノを隠したりする。
「志貴さま、何かご用でしょうか」
「いや、別にこれといって用事はないんだけどね。翡翠が何してるのかなって来ただけ」
【翡翠】
「わたしでしたら休憩をいただいている所です。私的な理由で調理実習をしているだけですから、ご用がないのでしたらお部屋にお戻りください」
……ああ、やっぱりこの前の続きをやってたのか。それにしても休み時間中も特訓するなんて熱心だな。
「んー、部屋に戻ってもやる事がないんだ。そういう訳でお邪魔したんだけど、翡翠は何を作ってるんだ? もしかして今日の夕食の一つとか?」
「いえ、今練習しているのは食卓に並べるものではありません。……文化祭というものが近いという話を聞きましたので、その————」
【翡翠】
「至らぬ身ですが、そのような特別な日ぐらい志貴さまのご昼食をお作りしてさしあげたいのです」
頬を赤く染めて、翡翠はそんな、不意討ちみたいな事を言った。
「———翡翠、ちょっと横いいかな」

は? と当惑する翡翠の答えを待たず、エプロンをつけてキッチンに立つ。
【翡翠】
「志貴さま、何をするのですか?」
「料理だよ。翡翠も頑張ってるし、俺も何か新しいメニューでも覚えようと思って」
【翡翠】
「……おやめください。志貴さまは遠野家のご長男なのですから、そのような事をなされる必要はありません」
「いいからいいから。今時はね、男でも料理の三つや四つはできないと生きていけないんだ。俺もいつまでも琥珀さんや翡翠の世話になってる訳じゃないんだし、少しずつ出来る事を増やしておかないといけない。それにさ、翡翠と一緒に上達するのって悪くないだろ? ……翡翠のお弁当、一日でも早く食べたいし」
【翡翠】
「——————————」
翡翠は黙ったまま答えない。
「ま、そういうコトだから特訓に付き合うよ。翡翠、ナイフうまく使えるようになったか?」
「…………………………」
こくん、と頷く翡翠。が、そのナイフ捌きは前とあまり変わっていない。
「あんまり無理しないようにね。怪我をしないように、ゆっくり上手くなればいいんだから」
放っておけば無茶しかねない翡翠に釘をさして、こっちも包丁を手に取った。
……そうだな。いい機会だし、野菜とか果物を上手く使うような料理にチャレンジしてみるか。
 
□遠野家のキッチン
トントントントントン。
まな板を叩く包丁の音がリズミカルに響く。
……さっきのお弁当発言が効いているのか、頬がにやけてしまって翡翠に話しかける事ができない。
翡翠も翡翠で心ここにあらずという風にトマトをサクッ。サクッ。と恐る恐る切っている。
【翡翠】
「……………あの、志貴さま」
「ん? なにか解らない事でもあった、翡翠?」
「………はい。失礼を承知でお訊きするのですが、志貴さまは学校を卒業なされたらお屋敷を出ていってしまわれるのですか……?」
不意に。
漠然と考えていた将来の事を、はっきりと質問された。
「———うん、一人暮らしはすると思うよ。けど前みたいに遠くなるってわけじゃなくて、部屋もこの近くに借りると思う。あ、けど別にこの屋敷が嫌だってワケじゃないぞ。……なんていうのかな、一度ぐらいは外に出ておかないといけない気がするっていうか———」
うーん、そんな背伸びするような考え自体が子供じみているとは思うんだけど、こればっかりはやっぱり必要だと思うのだ。
「ごめん、うまく言えない。けど気が済んだら戻ってくると思うから、その時も翡翠が屋敷にいてくれると嬉しい」
【翡翠】
「————————」
かすかに息を吸って、ナイフをまな板に置く翡翠。
【翡翠】
「志貴さま。その時は、どうぞわたしをお連れになってください。至らない身ですが、志貴さまのお役に立てるよう努力いたします。
……申し訳ありません。お一人で生活しよう、という志貴さまのお言葉は解るのですが、志貴さまがなんとおっしゃられようと翡翠には志貴さまが必要なのです」

「————————————」
手にしていた包丁が落ちる。
……どうかしている。
さっきのお弁当発言といい今の言葉といい、今日の翡翠は卑怯なぐらい———
「——————翡翠」
翡翠の手を取って、言葉もなく見詰め合う。
……だから、どうかしている。
頬を朱に染めてうつむく翡翠は卑怯なぐらい、愛しすぎる。
「志貴、さま————」
息が重なる。
俺たちは互いに指を絡ませたまま、ゆっくりと———
「きゃー! 翡翠ちゃんったらダイターン!」

【琥珀】
 と。
ズシャアー、と音をたてて琥珀さんが滑りこんできた。

【翡翠】
「ぁ——————」
びくり、と指を離す翡翠。
こっちも慌てて繋いでいた手を隠す。
「こ、こここ、琥珀さん、なななななんのようですか?」
【琥珀】
「あら、志貴さんラップですか? 翡翠ちゃんと仲良くできてごきげんなんですねー、このー!」
つんつん、と肘で横腹をつついてくる琥珀さん。
「……あの、いつから見てたんですか、琥珀さんは」
【琥珀】
「え、いやだなあ志貴さん、わたしはいま来たばかりですよー。別に志貴さんがロビーでぼんやりしてた所から後を付けてたりなんかしてませんってば」
うわ、こっちの予想以上に質が悪いよこの人!
【翡翠】
「……姉さん、あまり志貴さまをからかわれるのはどうかと思います」
「やだ翡翠ちゃん。わたしが志貴さんをからかったらこの程度で済むわけがないでしょう?」
くすくすと笑う割烹着の悪魔。
【琥珀】
「さ、それではどうぞ続きをなさってくださいな。翡翠ちゃんも志貴さんもお料理の勉強をしていたのでしょう? お邪魔はしませんから続けて続けて」
……そうは言いつつ、琥珀さんは一歩もここから動こうとしない。
「……あの。琥珀さん、何してるんですか」
「はい、お二人の調理の腕前を見守ろうかと。翡翠ちゃんはまだビギナーですし、志貴さんにいたっては料理以外の事もしてしまいそうですから」
「………」
笑顔でそう言われてはいまさら部屋に戻る事もできない。
そんなこんなで、翡翠と琥珀さんと俺という組み合わせてでガヤガヤと騒がしく調理実習をする事になったのだった。
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