私の会社では、事務関係の人は毎日決まった時間に出社するが、漫画制作班の人は、漫画の仕事のある時だけ会社に来る。「このあたりでやるからね」と予定表を見せておくと、皆、そのころ電話を掛けてきて、様子を見てから出てくる。
ところがたまにお客様根性が強く、何度注意しても、仕事の日をだれかが連絡してきてくれるのを待ってる人がいた。仮にAさんとする。Aさんは、簡単に言うとお嬢さまだった。夜中に、夜食のお弁当を買って来てと頼んだら、ちょっとむっとしたように「一時間たっても私が戻らなかったら、警察に連絡してください」と捨てぜりふを残して出ていったことのある人だ。朝までやるような漫画の仕事によく来れるなあと不思議ではあった。
ある日、当然仕事があるのはわかっているはずなのにAさんは行方不明。お母さんにも伝言してあるはずなのに、だ。何度か電話していると、十一時過ぎになって本人が電話に出た。
「仕事あるから、これから来て下さい」と言うと「もう電車がありません」「タクシーで来ていいよ」「父が、こんな時間から出るのかと怒っているから出れません」「じゃあいつもの仕事の日はなんて言ってあるの? 私がお父様に電話を代わりましょうか」「ちょっと待って下さい」。彼女はまたあとで連絡しますと言って、電話を切った。
何でそんなにすぐわかるようなうそをつくんだろうねえと皆で笑っていると、また彼女から電話があり、「父が今寝ついたのでこれからタクシーで行きます」。私は腹を抱えて大笑い。
しばらくしてやって来た彼女は、ろくにあいさつもせず謝る様子もなく、「タクシー代を」と領収証を突き出した。彼女の両親は、彼女のこんな部分に気づかない振りしてんだろうな。間もなく彼女は、プレゼント付き置き手紙を残していつの間にか辞めていた。でもどんなお嬢さまでも給料は取りに来るんだよねー。