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旅路57

时间: 2019-12-29    进入日语论坛
核心提示:    19雄一郎夫婦が釧路へ落着いてから、早くも三か月がすぎた。遠く雄阿寒《おあかん》、女阿寒《めあかん》の頂きを雪に埋
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    19

雄一郎夫婦が釧路へ落着いてから、早くも三か月がすぎた。
遠く雄阿寒《おあかん》、女阿寒《めあかん》の頂きを雪に埋めた冬将軍は、釧路湿原を凍りつくような風となって吹き荒さんだ。
釧路に、吐く息で睫毛《まつげ》も白く凍りつくという厳しい季節がやって来ていた。
雪は北の方から徐々に北海道を覆いはじめ、やがてそれがすべての大地を白く塗りつぶした頃、塩谷に住む岡本良平の父、新平が雪崩《なだれ》に呑《の》まれて死んだ。
保線の神様といわれたほどの名物男、岡本新平の死んだ夜は、小樽付近はまだ冬の最中《さなか》というのに気温がにわかに上昇した。
こうした晩は、ひじょうに雪崩が起りやすい。
新平は若い同僚の佐々木と組んで、注意深く線路の巡回を行なっていた。
案の定、小樽駅から札幌へ向って少し行った張碓《はりうす》、銭函《ぜにばこ》間に雪崩を発見した。
山ぞいの線路は約四、五十メートルにわたって、ずたずたに切断されている。
時計を見ると、間もなく下り五五三列車の通過する時刻であった。
「おい、お前、すぐ駅へ行ってけれ、俺はここで列車を止める……」
新平は直ちに行動を開始した。
彼にとっては、今迄《いままで》にもう何度となく経験している場面だった。別に慌てることはない。ゆっくりと線路の被害状況を調べはじめた。
だが、結果的にはそれが彼の油断であった。
ものすごい第二の雪崩が、カンテラをかざした新平の上へ落下して来た。
はっとした新平は、それでも逃げ出そうとして身を起したが、それよりも早く雪崩の巨大な腕は、彼をなぎ倒し、押し潰《つぶ》してしまった。
岡本良平はこのときのすさまじい雪崩の音を、現場のすぐ手前の銭函駅で聞いていた。
彼は奇《く》しくも、父が雪崩を発見したことにより脱線転覆を免れた五五三列車に乗務していたのである。
良平はたった一人の父親が、その雪崩の中に巻き込まれ、押し流されて行ったことを知らなかった。
ずたずたにされた張碓・銭函間の線路を必死になって復旧する保線区の人々の群の中に、自分の父親も汗を流して、除雪作業に従事しているものと信じて疑わなかった。
岡本新平爺さんが雪崩にやられたという報告は、すぐ銭函駅にも齎《もたら》された。
銭函駅で待機中だった良平は、吉川機関手からこの訃報《ふほう》を聞いた。
「そんな馬鹿な……お父《どう》は復旧工事に……」
初めは信じようとしなかった良平も、吉川から重ねて、
「新平爺さんの遺体は張碓に運ばれている……さっき、駅に連絡があったんだ……」
と説明されると、最早、疑うわけには行かなかった。
「どうする……すぐ張碓へ行くか……行くんなら列車のほうは君のかわりに機関助手を補充する。こんな場合だ、かまわんから仕事を休め……な……」
吉川は良平の家が親一人子一人なのをよく知っているだけに、余計、彼が不憫《ふびん》でならなかった。
「早く父さんの所へ行ってやれ……」
「吉川さん……」
良平が屹《き》っとして顔を上げた。
眼は涙で濡《ぬ》れている。
「吉川さん……俺……勤務中だで……勤務中だで……」
「それは構わん、特別の場合なんだからな……」
「いいや、俺は行かねえ……」
良平は駄々《だだ》っ子のように叫んだ。
「俺は今夜、五五三列車の釜《かま》たきだで……吉川さん……やっぱり終着まで、俺に釜たきやらせてけれ」
「やるのはいいが……しかし、大丈夫か……」
「はア……大丈夫だ、俺、お父が守った線路を……一番先に走る列車に乗るだ……俺が釜たきする……俺に釜たきさせてけれ、な、吉川さん、お父はそれが一番嬉しがるだで……」
最後のほうは嗚咽《おえつ》がこみあげ、言葉にならなかった。
良平は心配して集まって来た駅長、助役、他の同僚たちにくるりと背を向けると、大股《おおまた》に肩をいからせて機関車の方へ向って歩きだした。
悲しみが胸許までこみ上げていた。
早く機関車の中へはいり、声を限りに泣きたかった。
(お父……長い間御苦労さんでした……ゆっくり休んでけれ……そったらこといっても、お父は線路のことが心配で、毎晩見回りに出てくるべがさ……)
良平は空を見上げた。
夜空に冴《さ》え冴《ざ》えと三日月が出ていた。
雪崩の復旧工事は一昼夜を費してようやく終った。
踏みにじられた雪の上の、銀色に輝く二本の線路をまず渡ったのは、銭函に停車していた五五三列車であった。
機関車の上から現場をみつめる吉川の眼にも、必死で釜たきを続ける良平の眼にも、ただ滂沱《ぼうだ》たる涙、涙であった。
新平爺さんの通夜は、良平の乗務の終った夜、一日遅れで自宅で行なわれた。
仕度は、集まってくれた保線区の人々によって、手際よく準備されていた。
千枝は新平が雪崩《なだれ》に倒れたと知ると、すぐ現場へ駆けつけ、男たちに混って復旧作業を手伝った。
千枝は吉川機関手の家に預けられていた三か月間、よく新平に仕えた。最近では夕食の仕度はほとんど千枝がしていた。
夜など、良平の居ない留守、千枝が新平の肩を揉《も》んだり腰をさすったりした。
新平もすっかり千枝の裏表のないさっぱりした気性が気に入り、良平には言わないことでも千枝には機嫌よく話した。
彼が事故に逢《あ》った晩、やはり千枝が身仕度を手伝って送り出したのだが、出がけに、ひどく真面目《まじめ》な顔つきで、
「千枝さん……わしはこんな頑固《がんこ》者だし、良平の奴ときたら機関車のこと以外はまるで子供みたいな男だ……あんた、それでもこの家へ嫁に来てくれるかね……」
と言った。
「小父さん……いまさら何を言っているの……」
千枝が笑うと、
「ご苦労だが、良平を頼むでよ……めんこい孫をたんと産んでけれや……」
にこりともせず、真剣な表情で頼んだものだった。
新平爺さんの通夜の晩、千枝は泣けるだけ泣いた。千枝の心の中には、あの夜、線路の巡回に出て行く前に、新平が珍しく自分に対して語りかけた言葉の一つ一つが甦《よみがえ》っていた。
「孫はめんこいもんだで……孫の顔を見るまでは死んでも死にきれんで……」
新平の声が胸に浮かぶたびに、千枝は大声で泣いた。
千枝にとって新平爺さんは、気持の上でもすでに他人とは思えない存在となっていたのだった。
葬儀には間に合わなかったが、初七日には雄一郎も、知らせで東京から駆けつけて来た南部斉五郎も列席した。
南部はその後、或る運送会社の川崎支店長として働いていた。忙しい日程をさいて北海道へやって来たのである。
法事が終って、大方の人々は夜がふけるままにそれぞれ帰って行ったが、吉川機関手と南部斉五郎、それに室伏雄一郎の三人は、まだ新平爺さんの遺牌《いはい》の前に坐《すわ》っていた。
良平と千枝が最後の客を送っていった間に、南部斉五郎は雄一郎と吉川に向い表情をあらためて口をひらいた。
「ところで室伏君……」
「はあ……?」
「俺に一つ提案があるんだが……吉川君も聞いてくれ……」
「はい……」
「実は今夜、良平と千枝ちゃんを結婚させたいんだがどうだろう……」
「えッ、今夜……」
「俺はさっきから此処に坐って考えていた……今日、千枝ちゃんから、新平爺さんが出掛けて行った最後の夜、孫はめんこいものだ……孫の顔を見るまでは死にたくないと言ったという話を聞いて、俺はまったく臓腑《はらわた》の千切《ちぎ》れる思いがした……新平爺さんは、とうとう孫を抱く日が無かったんだ……」
「駅長さん、それは僕だって同じ気持です……」
吉川が再び洟《はな》をすすった。
「もう、それを言わんでください……」
「俺は考えた……この頑固おやじめ、自分で反対しておきながら、内心はどんなにか良平と千枝ちゃんの結婚式を待ちかねていたことか……こうして遺牌と向い合っていると、俺にはこのおやじの気持が痛いほどわかるんだ……。室伏君、俺はこの遺牌の前で二人を夫婦にしてやりたいんだよ……二人とも、この二、三か月の行動を見ておると、もうすっかり一人前だ、新平爺さんもきっと喜んで許してくれると思うんだ……」
「親父《おやつ》さん……」
雄一郎は頷《うなず》いた。
「僕には異存ありません……」
「私もいいと思います」
吉川も賛成した。
「よし、決った……」
南部は、あらためて岡本新平の遺牌の前に両手を合せ、二人の結婚についての了解をもとめた。
良平と千枝が恐る恐る部屋へはいって来た。外でうすうす今の話を立聞いたような様子である。
「良平と千枝ちゃん、お前たち、ちょっとそこへ坐れ……」
南部がふりむいて言った。
「俺の地声はでっかいから、今、言ったこと、たぶん聞えただろう……どうだ、お前たち、親父さんの前で夫婦になるか……」
「駅長さん……」
二人はおろおろと腰をおろした。
良平はまた右手の甲で顔を覆った。
「この大馬鹿野郎ッ……」
久しぶりで南部斉五郎のかみなりがおちた。
「親の死んだ時ぐらい思う存分泣かしてやろうと思って黙っとればいい気になりおって……いつまでめそめそしてるんだ……いい加減にけじめをつけないと、その横っ面ひっぱたくぞ、この大飯食いッ……さあ、とっとと返答せい、愚図《ぐず》愚図しやがると、千枝ちゃんを他の男んとこへ嫁にやっちまうぞ……」
言葉は少し荒っぽいが、裏には愛情が満ちあふれていた。
「待ってけれ……俺が千枝さんを貰《もら》うで……駅長さん、俺たちを夫婦にしてけれ……お願えします、駅長さん……」
良平は畳に額をすりつけた。
「よし、それなら俺が仲人をしてやる……」
南部は千枝に茶碗《ちやわん》と一升瓶を持ってくるよう命じた。
そして、仏壇の前に座布団《ざぶとん》を二枚並べ、灯明を新しくつけかえて線香を立てた。
道具立てが整うと、南部は二人を仏壇に向って坐らせ、
「新平爺さん、よく見ていてくれよ……二人とも一人前になったので結婚させる。あんたもこの二人を守ってやっておくれ……」
結婚の報告をした。
それから二人の前に茶碗を置いて酒をついだ。
「良平……お前は一日も早く一人前の機関手になれ、札鉄《さつてつ》一の、……いや、日本一の機関手になれ……千枝ちゃん、お前さんは新平爺さんの言葉通り、めんこい子を何人でも産むんだ……十人でも二十人でも……そしてそれを、みんな元気な役に立つ子に育てるんだ、分ったな、分ったら良平から茶碗をお取り……三々九度は間に合せだが、そのかわり高砂《たかさご》だけは本式にやってやるからな……」
良平と千枝はかわるがわる茶碗の酒を飲み交わし、終世変ることなき契りを誓い合った。
酒は吉川機関手がつぎ、雄一郎がそれを見守った。
新平爺さんの仏壇の前に、お経ならぬ謡曲『高砂』が朗々と流れた。
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