あるところに、卵《たまご》のすきな和尚さんがいました。よく、卵を煮《に》たり、焼《や》いたり、料理したりして食べていました。卵といっても、やはりなまぐさの一つですから、むかしはお寺で食べるわけにはいかなかったのです。それに、この和尚さん、大のけちんぼでしたから、そんなうまいものは小僧さんに食べさせたくなかったのです。小僧さんのほうでは、そういうものこそ食べたくて、うずうずしていました。
それで、ある日のことです。和尚さんのおぜんの上に、きいろい卵の料理のひとさらが乗っているのを見ると、小僧さん、すかさず、聞いてみました。
「和尚さん、そのおぜんの上のきいろのものは、いったい、なんでございますか。わたくしは、まだ一度も食べたことがございません。」
これを聞くと、和尚さんも、すかさずいいました。
「うん、これはユズみそというものだ。子どもの食べるものではない。」
もとより小僧さんは、それが卵だということは知っていました。だから、そのあくる日のことです。和尚さんについて、外へ出ると、一羽のニワトリを見つけました。ニワトリは、よその家のへいにとまって羽《はね》をバタバタたたいて、コッケ、コウコウと鳴いていました。そこで、小僧さん、和尚さんからすこしおくれて、立ちどまり、大声でよびました。
「和尚さま、和尚さま、へいの上で、ユズみそのおやじが鳴いておりますが、いったい、どうしたことなんでしょう。」
これには、和尚さんも弱り、
「いいから、早く来い。おとむらいにおくれるぞ。」
と、しかりつけたと、いうことです。