むかし、中村というところに、大作という男がいました。貧乏《びんぼう》で、山家《やまが》のほうへ小間物《こまもの》あきないに行っておりました。
ある年の暮れのことです。奥山《おくやま》で、雨にぬれて、ブルブルふるえて歩いていました。なんとかして、着物をかわかすわけにはいかないものかと、考えましたが、いつも、じょうだんをいっては、人をだましていたので、火をたいて着物をかわかしてくれるほど、大作に親切をしてくれる人もありませんでした。
ところが、ふと見ると、道ばたの家の中で、いろりに赤あかと火がもえておりました。大作は、その家にはいっていって、いろいろとせけん話を持ちかけ、そのあとで、
「ときに、正月に竹を食べる方法を知っていなさるか。」
こう、あいてに話しかけました。すると、家の男は、
「竹なんか食べられるものか。」
そういって、もちろんとりあいません。しかし大作は、なおも、
「いや、竹を輪切りにして、うんと火をたいて煮《に》てみなさい。きっとやわらかくなるから。」
「じゃあ、裏山《うらやま》の竹を切ってきて、いま目の前で煮てみようか。」
「そうそう、煮てみろ。ほんとにやわらかくなって食べられるぞ。」
そこで、あいては裏山へ行って、大きい竹を切ってきて、いくつもいくつも輪切りにして、ちょうど竹の子を煮るように、なべヘ入れて、グツグツ煮ました。三十分も一時間もそれを煮たてて、
「さて、もういいだろう。」
「うん、もうそろそろいいだろう。」
そこで、なべのふたをとってみました。しかし、竹はやっぱりもとの竹のままで、食べることなんて、もってのほかです。
「おまえは人をだましたな。じょうだんをいうにもほどがある。」
あいては、そういって、おこりだしました。すると大作、へいきな顔をして、
「ところで、おまえは、トラの油を入れたかね。」
そう、聞きました。
「トラの油? そんなものがあるものか。」
あいては、どなりました。
「ない? なくちゃあだめだ。トラの油がなくては、いくら煮ても、竹はやわらかくはならん。だが、どうやら着物もかわいたようだ。ここらでおいとまいたしましょう。」
そういって、大作は、かわいた着物を着て、さっさと出ていきました。