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海嶺24

时间: 2020-02-28    进入日语论坛
核心提示:冷 雨     三 熱田の船着き場に横づけになった宝順丸の水主《かこ》部屋で、大きな声がする。「親方ときたらあ、何でまた
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冷 雨
     三
 熱田の船着き場に横づけになった宝順丸の水主《かこ》部屋で、大きな声がする。
「親方ときたらあ、何でまた岩松なんて野郎を、呼び戻《もど》す気になったんかなあ」
水主頭《かこがしら》の仁右衛門の声だ。音吉は炊事場で夕食の米を磨《と》ぎながら、その声に耳を傾けていた。仁右衛門の声は、声の大きな水主たちの中でも、とりわけ大きい。がっしりとした体つきも、水主頭の名に恥じなかった。
「しようがないがな。舵取《かじと》りの万蔵さんが倒れたでな」
答えているのは、いつも元気な利七だ。
「舵取りぐらい、俺でもできるで。何もな、航海の途中でよ、船を下りるような不心得《ふこころえ》もんを使うことはねえんだ。そんな話、俺は見たことも聞いたこともないぜい、利七」
確かに水主頭の仁右衛門が言うとおりなのだ。船主や船頭たちは、仕事の途中で船を抜け出した者は、たとえ他の船の水主であったとしても、決して雇わぬと言う暗黙の約束があった。後にはこれは明文化さえされた取り決めである。
「それはそうだが、岩松つぁんの場合は、御蔭参《おかげまい》りだで、文句は言えんわ」
利七はどうやら、岩松の肩を持っているようだと、音吉はほっと胸をなでおろした。
ここ水主部屋は艫《とも》(船尾)に近い。屋根のついた水主部屋はおよそ三十畳|程《ほど》の広さである。「宝順丸」と書かれた船額の横に神棚《かみだな》がまつられ、床には莚《むしろ》が敷かれてあった。水主部屋の下は船倉で、炭や薪《まき》がぎっしりと積みこまれている。
音吉は、磨《と》ぎ上げた米を釜《かま》に入れ、造りつけの深い水槽《すいそう》から柄杓《ひしやく》で水を汲《く》み取った。水槽は艫の両側に深々と水を湛《たた》えている。水槽の板の内側は、火に焼かれてあって、水の腐らぬ工夫が凝らされている。
音吉は船に乗って初めて、父武右衛門が常々言っていた言葉が、身に沁《し》みてよくわかった。
「船乗りはのう、水が命だでのう、陸《おか》にいて水を粗末にする奴《やつ》は、必ずその報いを受けるでな」
幾度も、幼い頃《ころ》から聞いてきた言葉だ。だから音吉は、井戸から水を汲み、それを土間の水瓶《みずがめ》に運ぶ時も、一滴の水もこぼさぬように気をつけてきた。
今、音吉は、細心の注意を払って、水槽から釜《かま》に水を入れた。
(あの人は、この船に乗ることを承諾《しようだく》するやろか)
音吉はひどく岩松が懐かしい気がした。が、琴の乳房を荒々しくつかんだ岩松を思うと、恐ろしい気もする。
(岩松つぁんって、どんな人やろ)
水主たちには親切な水主頭《かこがしら》の仁右衛門が、岩松を快く思っていないらしい口ぶりに、音吉は何か不安なものを感じた。再び仁右衛門の声がした。
「しかし、俺はおもしろくないで。何も親方が、わざわざ菓子折りを持って、あんな奴《やつ》の所に頭を下げて行くことはないだろうが」
外は雨だ。千五百|石《こく》の米を積み込む作業は明日から始まる。船の中の仕事も一段落して、陸に上がった者もいれば、一服している者もある。今、働いているのは炊頭《かしきがしら》の勝五郎と音吉だけだ。久吉も炊だが、船頭の重右衛門について、岩松の家に行っている。岩松が承知をしなければ、舵取《かじと》りは仁右衛門が兼ねるかも知れない。
(乗ってもらったほうがいいか、悪いか)
音吉は大根の皮をむきながら思った。船端にひたひたと寄せる波の音が聞こえる。油紙を貼《は》った障子に、雨がさわさわと音を立てる。
(あの人が来たら、おやじさん〈水主頭〉とぶつかるかも知れせんな)
音吉は争いが嫌《きら》いだ。父の武右衛門も、母の美乃も、大きな声で争ったことはない。妹のさとと自分も、大声で喧嘩《けんか》をしたことなど、なかったと思う。武右衛門はよく言った。
「人に手を上げるもんではないで。殴る癖がつくと、必ず大ごとになるでな」
またこうも言った。
「いいか、音。獣と人間のちがいは、何やと思う。獣は口を利けんが、人間は口を利く。口の利けん獣は、噛《か》み合うたり、殺し合うたりするが、人間は言葉で話し合えば、それでいいだでな」
音吉は父の言うとおりだと思っている。
音吉が千石船《せんごくぶね》に乗ったのは、昨年二度だけであった。そして今、小野浦から熱田まで、美濃米《みのまい》を積みに来た。たったそれだけの経験の中で、只《ただ》一ついやなことがあった。仕事をする時は、みんな心を合わせてするのだが、酒が入ると、一人か二人、必ず大声で人に絡む者がいる。それをまた真に受けて怒鳴り返す者がいる。一夜明ければ、互いにけろりとしてはいるのだが、その怒鳴り合いが音吉には耐えられない。
(岩松って人も、怒鳴るかも知れせんな)
思いながら音吉は、自分が小胆だと思う。久吉から聞いた、截断橋《さいだんばし》の上での岩松の武勇伝《ぶゆうでん》は、琴の乳房をつかんだ荒々しい仕ぐさと重なって、音吉を恐れさせる。だが一方、あの夜の、自分に対したやさしさもまた、信ずることができるような気がする。
(妙な人や)
音吉は、大根を千切《せんぎ》りにとんとんと刻んでいく。それほど巧みではないが、久吉よりは器用だ。刻みながら、音吉は琴の顔を思い浮かべた。
昨日、一年ぶりに千石船に乗る音吉を、母の美乃も、妹のさとも、浜まで見送りに来た。他の水主たちの家族も何人か見送る中に、なぜか琴の姿が見えなかった。
「気をつけるんやで音吉。みんなの邪魔にならんようにな、よう働くんやで」
美乃はそう言い、兄の吉治郎に向かって、
「吉治郎、音吉に負けんと働かなならんでな。そしてな、音吉に、何でも教えんといかんで」
いかにもしっかり者らしい美乃の言葉だった。吉治郎は、
「わかった、わかった。それより、母さまも父っさまを大事にして、末長う仲よく暮らすんやで」
と笑った。が、美乃は笑わずに、
「吉治郎、何やその挨拶《あいさつ》。まるで……」
長の別れの挨拶のようだと言おうとして、美乃は口をつぐんだ。吉治郎は、
「まるで、長の別れのようだと、言いたいんやろ。そうかも知れせんで」
と、軽口《かるくち》を叩《たた》いた。
「吉治郎、またそんなことを言うて。ま、そんなことを言うた者で、死んだ者はいないと言うだでな」
美乃も笑って、艀《はしけ》に乗る音吉と吉治郎を交互に見た。
久吉の母のりよも見送りに来ていた。
「何せお前はひょうきん者だでな。ふざけて船から落ちたらいかんで」
妹の品も、
「ほんとや。兄さは、ふざけてばかりやからな」
と笑った。久吉は、
「なあに、俺は河童《かつぱ》や。海ん中も、陸も変わりあらせん。な、音吉」
と言って、艀《はしけ》に飛び乗った。
音吉は、琴の姿が見えないので、気になった。
(一体お琴は、どうしたんやろう)
艀に乗った音吉は、あたりを見まわした。と、人々から少し離れた松の木立の中に、顔だけを木蔭《こかげ》からそっと出して、自分のほうを見ている琴を見つけた。
(何や、あんな所にいたのか)
音吉が手をふった。琴の手も高く上がった。音吉は、手で空に一の字を書いた。琴も一の字を書いた。今度は琴が円を書いた。音吉も円を書いた。これは二人だけの暗号だった。一の字は「一番好きや」と言う暗号で、円は「無事で」と言う暗号だった。人目の多い樋口の屋敷の中で、二人がひそかに交わし合っていた、子供らしい暗号であった。
琴は、父の重右衛門が、一航海ごとに帰って来、発って行くことに馴《な》れていて、時には浜まで送りに出ないこともあった。そんな琴が、人々から離れて、そっと自分をみつめていてくれたことに、音吉は満足を覚えた。久吉は琴に気づかず、
「音吉、お琴の奴《やつ》、送りに来《き》いへんかったな。冷たい奴やな」
と、音吉をからかった。
音吉は、今、大根を刻みながら、琴の顔を思うと共に、昨日の妹さとの姿を思った。
艀が動き出した途端、さとは、
「兄さー!」
と叫んで、思わず二、三歩、冷たい海の中に足を踏み入れたのだった。そのさとを思うと、琴へとはまたちがった愛《いと》しさがこみ上げて来る。
(江戸の土産《みやげ》に、さとには何を買ってやろうか)
音吉は、大根を刻み終わった。どうやら少し雨が小降りになったようだ。水主頭《かこがしら》と利七の声も、いつしか途切れていた。
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