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創造の人生72

时间: 2020-10-28    进入日语论坛
核心提示:創造性開発をめざす このように、井深は、多彩な活動を続けているが、その姿勢を通して強く感ずるのは、常に一貫したフィロソフ
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 創造性開発をめざす
 
 このように、井深は、多彩な活動を続けているが、その姿勢を通して強く感ずるのは、常に一貫したフィロソフィをもって行動している点である。
 それはこれまでの井深の生きざまを改めて振り返るとよくわかる。たとえば、ソニーの事業活動の基本精神は「人と同じことをしたくない」ということだった。それも大量生産、大量販売することによって、コストダウンをはかり利益を上げるという発想でなく、技術開発に積極的に投資し、よそにできないものをつくり出す。そういう製品を絶え間なく世に出してゆく。それが井深が掲げた基本理念であった。
 この独特な経営理念は、PCL時代に培われたような気がしてならない。前述のように、井深は、中学生の頃やっと芽生えた無線技術の魅力にとりつかれ、当時、あまり見向きされなかった弱電工業の分野で身を立てる決心をする、そして早大在学中、持ち前の好奇心を発揮して、次々に新しい技術を開発、頭角を現した。それが、PCLの植村泰二の目に止まり、録音技術という未開拓の仕事とかかわりをもつようになった。以来、植村のもとで自分のしたいこと、好きなことを自由にやらせてもらった。井深の持論である「固定観念にとらわれず、自由に思索し、行動する合理精神」は、この期間にはぐくまれたといっても過言でない。
 戦後、その知識と経験を元手に会社を興し、テープコーダ、トランジスタラジオをつくりあげ、日本のエレクトロニクスの幕開けに大きく貢献した。それも、単におもしろいからやったのではなく、世の中で、いま何が求められているかという点から出発したものだ。しかも、失敗を恐れず実験を積み重ね、タイミングを見はからって一気に事業化へ突進していった。その積極的な姿勢が〈ソニー・スピリット〉につながるのである。
 また、井深は先を見る目は誰よりも鋭い。たとえば、昭和三十年代後半、井深は公開の席でアメリカの経営学者と論争し、「アメリカのエレクトロニクスは、国防産業と宇宙産業にスポイルされる」と決めつけた。その直後、なんでそんな厚かましいことをいったのかと悔いたそうだが、撤回する気は毛頭なかった。軍事用など、特殊な用途にしか使えないといわれたゲルマニウムトランジスタ、シリコントランジスタを、世界に先がけて民生用に使いこなした経験と実績から割り出した結論だからであった。それが現実のものになるまで、さして時間がかからなかった。
 その井深は、最近よくこんな話をする。「コンピュータが第五世代といっているけれど、あれはコンピュータを知りすぎた人間がやっているから、基本的には変わっていないんですよ。スピードが速くなるだけで……。これも左脳でしか考えていないんだな。左脳は言語、理論、計算なんかをつかさどる。これに対し右脳は音楽、芸術、信仰といった言葉でいい表わせないものをつかさどる。これからの世の中は、その言葉でいい表わせないところが重要になると思うんだ。そういう意味でも、もうそろそろ右脳で考えたコンピュータを真剣にやらないと、コンピュータの行く末は知れちゃいますよ」
 戦後、日本の科学技術は相次ぐ技術革新によって、長足の進歩をとげた。それによって、われわれの生活は確かに便利になった。だが、現実の社会は欧米流の物質文明のみが先行し、人間の心や感情が入り込む余地がだんだん狭められている。自分さえよければという自己中心主義の人間が横行するのもそのためである。この片寄った思想を改めない限り、技術文明は日本に定着しない。
 ところが、規模の大きくなった会社や、安定路線を走っているメーカーの人間は、考え方がどうしても保守的になる。冒険や改革はリスクが伴うし、環境も変わる。それが怖いのだ。そういう人間が多いところでは、新しい創造なりイノベーションは生まれない。それを井深は指摘しているのである。
 井深が取り組んでいる幼児教育にも、それと似たことがあった。最初、遺伝を否定することからはじまった井深の幼児教育は、乳幼児の才能開発を経て、いつの間にか胎児の母親を対象にした「0歳教育」にまで拡がってきた。これも「胎教」という問題にぶつかったのが発端であった。
 むかしから、妊娠した女性にとって「胎教」は大事なことといわれてきた。だが、著名な学者や専門家はその必要性を認めようとしなかった。「妊娠中の母親の脳と胎児の脳は、神経繊維を通してつながっていないので、親が何を考えようとも、胎児にはまったく影響がない」という従来の学説があるからだった。
 これには井深も引っかかるものがあったが「著名な学者がいうのだから間違いあるまい」という態度を取ってきた。ところが、昭和五十四、五年になると、この分野の研究もすすみ、超音波を使って胎児の像をブラウン管に映し出す技術が開発された。おかげで、未知の領域だった胎児の様子がだんだんわかってきた。その結果、母親が心理的なショックを受けたり、何を考えているかで、胎児がいろいろな反応を起こすことが、ある程度立証できるようになった。
 にもかかわらず、著名な学者や専門家は、この分野に手を出すのをためらっていた。それを知った井深は、あえてこの分野に挑戦することにした。妊娠中の母親を対象にした井深の『0歳児教育』は、こうしてはじまった。それも単なる啓蒙運動でなく、理解のある学者や専門家の協力をあおぎ、母親の心構えが幼児教育にどれだけ大切かを積極的に訴える、本格的な活動であった。
 教育問題に熱心な経営者、企業人は大勢いるが、ここまで徹底してやっている人は、そうザラにいない。これも教育の世界にもイノベーションをもちこまなければ、本当の意味の人づくりはできないという井深の執念があればこそのような気がしてならない。
 そんな井深が創業したソニーが、苦境に立っている。ホームビデオの開発で先駆的な役割を果たしたものの、ファミリーづくりに失敗、主導権を後発のVHSグループに奪われたからだ。また、べータ、VHSの二の舞を避けようと苦心の末標準化をはかった八ミリビデオも、日本ビクターの造反で、ふたたび同じような泥仕合を展開する羽目に追い込まれてしまった。むかしと違い「技術の成熟、平準化」がすすんでいるだけに、こういう現象が起きるのである。
 だが、そのビデオ技術の平準化も、ソニー技術陣が長年にわたって構築した磁気記録技術をベースにしなければできなかったことを、当事者やマスコミは忘れている。それをタナに上げ、ソニーの技術をとやかく論ずるのは、開拓者に対する礼を欠いた議論といわざるを得ない。
 とはいえ、ソニーがビデオで劣勢に立たされていることは紛れもない事実である。それも、技術の質で負けたのではなく、量産技術、価格競争で出し抜かれたにすぎず、たとえば、VHSフォーマットがアメリカ市場で優位に立つ最大の原因は、VHSファミリーが、損を承知で価格をソニー製品より二〇〜三〇パーセント安く設定、大量に売り込むことに成功したためといわれている。これに対しソニーは技術と品質さえよければ絶対に負けないと自負していた。その過信が、結果的にVHSグループに差をつけられる原因になったわけだ。コンシューマ商品の怖さはそこにある。
 それを身をもって知ったソニーは、経営戦略の見直しを余儀なくされる。事業本部制の導入、量産体制の確立、販売組織の強化、コンシューマ商品への傾斜是正と、創業以来はじめてという大変革を次々に実施した。別な見方をすれば、ソニーはやっと大企業としての自覚をもちはじめたといえるかもしれない。
 そんなソニーの現状を、井深はどう見ているだろう。その辺が気になるところだが、井深自身は至極冷静である。ある雑誌でこんな意見を述べている。
「会社がこれまでの延長線上で動いていれば、いずれ破滅してしまうだろう。ハードだけで他社と競争しても先が知れている。そういう意味でも、ソニーは変わらなければならないと思っている。いまや僕や盛田君が製品のアイデアを技術者に押しつけて開発させる時代ではない。ウォークマンのように、必要に応じて押しつけることもあるかもしれないが、これからは、むしろ現場の人がアイデアを出して、上に押しつけるようにしていかなければいけない」(日経ビジネス、六十二年八月三日号)。
 つまり、ボトムアップの時代に移行することがソニー再生の道につながるというわけだ。さらにこうもいう。
「私は、ソニーの将来についてはそう心配していない。もともとうちは、既定の路線をあまり尊重しない、あるいは、否定してもかまわないというのが社風。その考え方が異質と人はいうが、本当はその考えを実行してしまうのが異質なんです。そういうふうに、状況に応じて性格を変えていくことで、うちは伸びてきた。その伝統の精神は、いまでも脈々と生きている。それがうちの強味だと思っている」
 いま井深の最大の関心事は、これからの日本の行く末だという。むかしと違い、日本は世界有数の技術大国になった。物づくりの技術をひたすら追い求め、なりふりかまわず働いてきた成果である。だが今後はそれでは通用しない。もっと広く世界に貢献する政治なり、施策を打ち出していかないと、世界中から袋だたきに合うに決まっている。それがわかっていながら、現実の社会では相変わらず〈島国根性〉が横行している。こんな現象が起きるのも、日本の指導層に本当の意味で優れた人材がいないからだ。井深が幼児教育、母親教育に強い関心を寄せるゆえんもそこにある。
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