「十分」は、「じっぷん」ですか?「じゅっぷん」ですか?
こたえ
「十(zip)」は、開音節化されて[ジフ]のようになる唇内入声音しんないにっしょうおん(-p)をもつ字で、歴史的仮名遣いでは「じふ」と書きます(但、呉音。漢音では「しふ」)。漢字音の場合、入声にっしょう音にk・s・t・h(f)の子音が連接するときに〈促音化〉が生じます。合戦(カフ>カッ)、早速(サフ>サッ)、納豆(ナフ>ナッ)などがその例です。同じように、「十」に「回」「冊」「頭」などが接続すると、それぞれ「ジッカイ」「ジッサツ」「ジットウ」と発音されることになります。また、「十本」の場合、促音の直後のハ行音はp音化する現象があるために「ジッポン」となります。これらの発音を『現代仮名遣い』に従って書き表わせば、「じっかい」「じっさつ」「じっとう」「じっぽん」のようになるでしょう。このことから、「十分」という漢字の〈読み〉は「じっぷん」であると考えられます。実際に、『常用漢字表』でも「十」の音訓欄に「ジッ」の音があり、例として「十回」があげられています。
なお、現代語で[ジュー]と発音し「じゅう」と書く文字は、一般に促音化しません。「渋滞(ジフ)」や「住宅(ヂュウ)」、「銃殺(ジュウ)」などが例となります(カッコ内は字音による発音を示す)。このことから、[ジュップン]という発音(促音化)は、「十分」の規範的な読みである[ジップン]と「十」のもう一つの音読み「ジュウ」との類推によるもの(誤った慣用)ではないかと推定できます。
但、これは「十分」という漢字(熟語)の〈読み〉の問題です。現在、「10分」は[ジュップン]と発音されるのが普通です。話しことばは、書きことばのように正式のものではありませんから、単に「10分」という意味を表わす場合には、[ジュップン]でも[ジップン]でも、好きなように発音して構わないといえるでしょう。また、話しことばで[ジュップン]という発音が一般的である以上、「10分」を「じゅっぷん」と読んだり、平仮名で「じゅっぷん」と書くのも間違いとはいえません(現在の仮名遣いの規範では、発音通りに書くのが基本です)。「十分」という漢字の読みを「じゅっぷん」とするのは正しいとはいえないというだけです。
まとめると次のようになります。
“10 minutes”を表わす語:「じゅっぷん」・「じっぷん」(現在では「じゅっぷん」の方がふつう)
「10分」という語の読み方:「じゅっぷん」・「じっぷん」(現在では「じゅっぷん」の方がふつう)
「十分」という語の読み方:「じっぷん」