「~わけではない」、は“あることを部分的に否定している”と、文法の本に書いてあるけど、そこにあげられた例文は「学生時代、勉強ばかりしていたわけではない。よく旅行もした。」です。でも、それ以外の意味で使うことはないでしょうか?
こたえ
まず、「わけ」について。「わけ」は、主にものごとの〈理由や根拠〉などをあらわします。
遅刻したわけを言いなさい。
わけもなく涙が出ます。
どういうわけかわかりませんが、彼がそう言ったのです。
「わけ(訳)」は、もともと「分け・別け」という語と同じでした。つまり、何かと何かを区別するという意味から、正しいものとそうでないものとを区別するという意味になり、理由や根拠を示すようになったと推測されます。ですから、「わけ」が表わす理由や根拠には「正当な理由」「正しい根拠」という意味合いがあります。「これにはわけがあるんです。」とか「実はいろいろとわけがありまして。」などと弁明する場合には、正当な理由があると主張しているわけです。また、「わけのわかった人」といえば、「きちんとした常識・分別を身につけた人」という意味になります。これも、正しい物事とそうでないものとを区別するということでしょう。
しかし、「~わけではない」という場合には、すこし事情が異なります。例えば、「彼女は万引きの犯人だが、お金がないわけではない。」というような場合は、〈お金がないという理由で万引きをしたのではない〉という理由・根拠をはっきりと指し示しているといえるでしょう。一方、「学生時代、勉強ばかりしていたわけではない。」のような場合には、「わけ」が何かの理由・根拠を直接示しているのではありません。このような場合の「わけ」は、「勉強ばかりしていた」という事柄を漠然と指している(受けている)とみなければなりません。文法書に“あることを部分的に否定している”と書かれているのは、「わけ」が事柄や状態を漠然と指し示すからでしょう。たとえば、「学生時代、勉強ばかりしていたわけではない。」というときに、直接に否定されているのは「わけ」ということになりますが、「わけ」が〈学生時代勉強ばかりしていたこと〉を(はっきりとではなく)漠然と指し示しているために、部分的な否定であると感じられるということでしょう。
しかし、このような「~わけではない」の用法でも、〈理由や根拠〉を示さないというのではありません。たとえば、「学生時代のあなたはとても真面目だった。」と言われたことに対して、「学生時代、勉強ばかりしていたわけではない。よく旅行もした。」というときには、「学生時代、勉強ばかりしていた」ことを「とても真面目」であることの〈理由・根拠〉と考えているという意味合いがあります。また、「彼が嫌いだというわけではない。」と言う場合には、例えば、〈僕が彼に不親切だと思うかもしれないが、それは彼が嫌いだという理由からではない〉というような意味があると考えることもできます。つまり、「~わけではない」という言い方は、(文の中で具体的に示された)ある事柄や状態を漠然と指して否定する(部分的に否定する)だけでなく、その事柄や状態が(多くの場合、文の中では具体的に示されない)別の事柄や状態の理由・根拠になっていることも示す表現であるといえるでしょう。
まとめ。「~わけではない」の「わけ」は、(「~」の部分で言及された)ある事柄や状態を漠然と指し示します。そして、その事柄や状態が、文脈の中にある(多くの場合、文の中には具体的に現われない)別の事柄や状態の理由や根拠を示すようになっています。