「どうしたんですか?」と「どうしましたか?」の違いはなんでしょうか?
こたえ
「どうしたんですか?」の「ん」は、本来は、「~なのです」「~のです」と同じ「の」です。ですから、内容を確認する働きをしているといえそうです。たとえば、「頭が痛いんです。」では「頭が痛い」という内容を「ん」でもう一度確認していることになります(強い断定)。
ただ、実際の発話において、「ん」は、相手に何かを訴えかけるという働きをしているようです。例えば、授業中の先生の質問に答えられないときには、「わかりません。」といいます。「わからないんです。」とはいいません。しかし、あまり自信のない答えをするときには、「わからないんですけど、~~ではないかと思います」というでしょう。このような場面で、「わかりませんが、~~ではないかと思います」とは言わないものです。
「わかりません。」は〈わからない〉という事実を伝えるだけですが、「わからないんです。」は〈わからない〉という事実を伝えるだけでなく、相手に何かを訴えかけるという働きをしていると思われます。ですから、先生の質問に答えられない場合など、〈わからない〉という事実だけを伝えるべき場面では「わかりません。」といいます。「わからないんです。」と言ってしまうと、〈わからない〉ということだけでなく、例えば「何で俺に質問するんだ」とか「先生の説明が悪いんじゃないの」などというような不必要な情報(感情の要素)を相手に与えてしまうでしょう。それに対して、自信のない答えをするときに「わからないんですが、~~」と前置きするのは、「間違っているかもしれないが許して欲しい」とか「間違ったことをいってもおこらないでね」とか「きちんとフォローしてください」といった「訴え」をしている(自分の気持ちを推測してほしいと思っている)わけでしょう。〈わからない〉という事実と同時に、それに関連するさまざまな情報(感情の要素)を伝えているのです。「わかりませんが、~~」というのでは、このような気持ちは伝わりません。
ですから、「どうしましたか?」は、やや事務的で冷たい感じを与えます。事務的な場面(役場の窓口とか大学の事務とか)では、「どうしましたか?」と言われるのが普通です。「どうしたんですか?」では、やや失礼に感じたり、逆に少しなれなれしく感じられるでしょう。これは、「ん」に感情を表出する機能があるためと思われます。逆に、親しみを表わす必要のある場面(医者が患者を診察するなど)では、「どうしたんですか?」といった方がよいでしょう。「あなたの用件に関心がありますよ」というメッセージを含むことになるからです。また、それだけでなく「昨日まで元気そうだったのに」という「驚き」や「心配しないで症状を言ってくださいね」という「配慮」などをあわせて伝えることもあるかもしれません。