「どこへ(に)行きますか」と「どこへ(に)行くんですか?」はどう違いますか?
こたえ
「行くんですか?」の「ん」は助詞の「の」が変化した形です。「の」には、話し手が確信をもって(明らかな証拠があるなど)断定や推測をしていることを示す用法があります。たとえば、「あきらめろ。君は負けたんだ。」というときには、話し手は聞き手(「君」)が〈負けた〉ことをかなり強く確信している(何か明らかな証拠や状況がある)わけです。おなじく、「彼が泣くなんて、よっぽど悔しかったんだろう。」というときには、話し手は「彼」が〈悔しかったから泣いた〉ことをかなり強く確信している(何か明らかな証拠や状況がある)わけです。ですから、「それではダメです。」/「それではダメなんです。」では、「それではダメなんです。」の方が強い言い方になります。つまり、「それではダメなんです。」というときには、話し手が〈ダメであること〉を確信している(なぜダメなのかについて明らかな証拠や状況があると考えている)と考えられるからです。
「どこへ行くんですか?」でも、「ん(の)」は、話し手に確信があることを示しています。つまり、質問する相手が〈どこかへ行く〉ことを話し手(質問者)が確信しているわけです。ですから、大きな旅行カバンを持った知人にたずねるときには(旅行カバンは、どこかへ旅行に行くことの明らかな証拠となるため、質問者は相手がどこかへ行くことを確信しているはずです)、「どこへ行くんですか?」という方が自然です。相手が車に乗り込もうとしているときなども「どこへ行くんですか?」という方が良いでしょう。もちろん、自分が道を歩いているときに逆から知り合いが歩いてきた場合にも、その知り合いは明らかに〈どこかへ行く〉わけでしょうから、「どこへ行くんですか?」と聞くことになります。
このような場合にも、「どこへ行きますか?」といえないことはありません。それは、「どこへ行きますか?」は、より中立な(客観的な)表現だからです(そのため、日本語教育では「の」を使う表現を導入する以前には「どこに行きますか?」のような形を教えるのが普通です)。しかし、質問する相手が〈どこかへ行く〉ことが明らかなときに、「どこへ行きますか?」というのは、やや不自然にも感じられます。
「どこへ行くんですか?」は、〈どこかへ行く〉ことが明らかな状況で使う表現ですから、言い方によっては相手に詰問したり、注意したりする(怒る・叱る)意味にもなります。例えば、「こんな時間に一体どこに行くんですか?」(詰問)、「コラ!どこへ行くんだ!」(注意)のようにです。また、〈どこかへ行く〉ことがそれほど明らかでない状況で「どこへ行くんですか?」を使うと、場合によっては失礼な言い方にもなります。例えば、「夏休みはどこに遊びに行くんですか?」「いや、どこにも遊びに行く予定はないよ。お金がないからね。。。」のようにです。この場合は、〈休みなんだから当然どこかに遊びに行くだろう〉ということで質問しているわけですが、結果的に少しイヤミになっています。このような場合には、「夏休みはどこに遊びに行きますか?」といえば、〈遊びに行く〉かどうかを断定していない(より中立な表現である)ため、それほど失礼にはならないでしょう。
同じように、相手を飲みに誘うとき(相手が行くかどうかわからないとき)などには「どこかに飲みに行きますか?」といわなければなりません。「どこかに飲みに行くんですか?」というと、誘っている言い方ではなく、相手が飲みに行くことを確認する(質問する)言い方になります。相手が飲みに行くに違いないという確信があって言っているということになるからです。
「どこへ(に)行くんですか?」
相手が〈どこかへ行く〉という確信(根拠)があるときに使う。
「どこへ(に)行きますか?」
相手が〈どこかへ行く〉かどうかわからないときにも使える。逆に、相手が〈どこかへ行く〉ことが明らかなときに使うとやや不自然になる。