先生の部屋に入るときに「失礼します。」といいます。部屋を出るときには「失礼します。」といいますか?「失礼しました。」といいますか?
こたえ
部屋に入るときに「失礼します。」というのは、相手の管理する空間に侵入することを非礼と捉えて謝っているものと思われます。また、部屋を出るときに「失礼します。」というのは、自分が相手の管理下から離脱することを非礼と捉えて謝っているものと思われます。相手が目上の人である場合に、「さようなら。」というかわりに「失礼します。」ということがありますが、同じ気持ちでしょう。
部屋を出る場合には「失礼しました。」ということもあります。むしろ、現在では「失礼しました。」という方が普通かもしれません。これは、退室するという行為だけでなく、相手の空間に入り込んだことや相手に時間をとらせたことなどをまとめてわびているように思われます。「失礼します。」と「お邪魔しました。」とを掛け合わせたような気持ちといえるかもしれません。
「失礼しました。」を、〈過去の非礼な行ないをわびる表現〉と見なして、退室(退出)時のあいさつとしては不適当だという人もいます(このような感じ方は年配の方に多いようです)。規範的にはもっともな意見だと思います。しかし、現在では、「失礼しました。」の方が「失礼します。」よりも丁寧な表現だと感じる人が多くなっているようです(間接的な表現と捉えて、より丁寧な表現と考えているのかもしれません)。ですから、「失礼します。」と「失礼しました。」とは、相手によって(相手の世代に応じて)使い分ける必要があるかもしれません。
敬語や挨拶のことばには、正しく使うというよりも、相手が正しいと信じているように使わなければならないという難しさがあります。例えば、入室時に「失礼します。」というと、「失礼をしに来たのなら帰れ!」とか「謝るくらいなら入ってくるな!」などと怒鳴り声を返してくる気難しい人もあります。辞書で調べた場合に「失礼」が〈ごめんなさい〉または〈さようなら〉という意味になるのは事実です。しかし、礼儀正しくしようとしている人を怒鳴りつけるのでは、あまり上品な趣味とはいえないでしょう。ただ、やむなくそのような人と付き合わなければならないこともあるのが、難しいところです。