「ええ、そういうことです」
ファッジは疲れた様子で両目をこすり、陰気いんきくさい目つきで首相を見た。
「首相閣下かっか、私のほうもあなたと同じ一週間でしたよ。ブロックデール橋……ボーンズとバンスの殺人事件……言うまでもなく、西せい部ぶ地ち域いきの惨事さんじ……」
「すると――あー――そちらの何が――つまり、ファッジ大臣の部下の方たちが何人か――関わって――そういう事件に関わっていたということで?」
ファッジはかなり厳きびしい目つきで首相を見み据すえた。
「もちろん関わっていましたとも。閣下は当然とうぜん、何が起こっているかにお気づきだったでしょうな?」
「私は……」首相は口ごもった。
こういう態度を取られるからこそ、首相はファッジの訪問ほうもんが嫌なのだ。痩やせても枯かれても自分は首相だ。何にも知らないガキみたいな気持にさせられるのはおもしろくない。しかし、そう言えば最初からずっとこうなのだ。首相になった最初の夜、ファッジと初めて会ったそのときからこうなのだ。昨日きのうのことのように覚えている。そして、きっと死ぬまでその思い出につきまとわれるのだ。
まさにこの部屋だった。長年の夢と企くわだてで手に入れた勝利を味わいながら、この部屋にひとり佇たたずんでいたそのとき、ちょうど今夜のように、背後で咳払せきばらいが聞こえた。振り返ると小さい醜みにくい肖しょう像ぞう画がが話しかけていた。魔ま法ほう大だい臣じんがまもなく挨あい拶さつにやってくるという知らせだった。
当然のことながら、長かった選挙運動や選挙のストレスで頭がおかしくなったのだろうと、首相はそう思った。しかし、肖像画が話しかけているのだと知ったときの、ぞっとする恐ろしさも、そのあとの出来事の恐きょう怖ふに比べればまだましだった。暖炉だんろから飛び出した男が、自み�class="title">