ショックが消えるまでしばらくかかった。過酷かこくな選挙運動中の睡眠すいみん不足がたたってファッジの幻覚げんかくを見たのだと、一時はそう思い込もうとした。不ふ愉ゆ快かいな出会いを思い出させるものはすべて処分しょぶんしてしまおうと足あ掻がきもした。スナネズミを姪めいにくれてやると、姪は大喜びだった。
さらに、ファッジの来訪らいほうを告げた醜みにくい小男の肖しょう像ぞう画がを取りはずすよう首相秘書ひしょに命じもしたが、肖像画は、首相の困惑こんわくをよそに梃て子こでも動かなかった。大工が数人、建けん築ちく業ぎょう者しゃが二人ほど、美び術じゅつ史し専せん門もん家かが一人、それに大蔵おおくら大臣まで、全員が肖しょう像ぞう画がを壁かべから剥はがそうと躍起やっきになったがどうにもならず、首しゅ相しょうは取りはずすのを諦あきらめて、自分の任にん期き中ちゅうは、なにとぞこの絵が動かずに黙だまっていますようにと願うばかりだった。絵の主がときどき欠伸あくびをしたり、鼻はなの頭を掻かいたりするのをたしかにちらりと目にした。そればかりか、泥色どろいろのキャンバスだけを残して、額がくから出ていってしまったことも一度や二度はある。しかし首相は、あまり肖像画を見ないように修しゅう練れんしたし、そんなこんなが起こったときには必ず、目の錯覚さっかくだとしっかり自分に言い聞かせるようになった。