「では、あなたのお考えでは……」首相は目を細めて、左手に持った名前を見た。
「このヴォル――」
「名前を言ってはいけないあの人!」ファッジが唸うなった。
「失礼……『名前を言ってはいけないあの人』が、まだ生きているとお考えなのですね?」
「まあ、ダンブルドアはそう言うが――」
ファッジは細縞ほそじまのマントの紐ひもを首の下で結びながら言った。
「しかし、我々は結けっ局きょくその人物を発見してはいない。私に言わせれば、配下はいかの者がいなければ、その人物は危き険けんではないのでね。そこで心配すべきなのはブラックだというわけです。では、先ほど話した警告けいこくをお出しいただけますな? 結構けっこう。さて、首相閣下かっか、願わくはもうお目にかかることがないよう! おやすみなさい」
ところが、二人は三度会うことになった。それから一年と経たたないうち、困りきった顔のファッジが、どこからともなく閣かく議ぎ室しつに姿を現し、首相にこう告げたのだ。
――クウィディッチ(そんなふうに聞こえた)のワールドカップでちょっと問題があり、マグルが数人「巻き込まれた」が、首相は心配しなくてよい。「例のあの人」の印しるしが再び目もく撃げきされたと言っても、何の意味もないことだ。ほかとは関連かんれんのない特殊とくしゅな事件だと確信かくしんしており、こうしている間にも、「マグル連れん絡らく室しつ」が、必要な記憶きおく修しゅう正せい措そ置ちを取っている――。
「ああ、忘れるところだった」ファッジがつけ加えた。
「三さん校こう対たい抗こう試合じあいのために、外国からドラゴンを三頭とスフィンクスを入国させますがね、なに、日にち常じょう茶さ飯はん事じですよ。しかし、非常に危険な生物をこの国に持ち込むときは、あなたにお知らせしなければならないと、規則きそくにそう書いてあると、『魔ま法ほう生せい物ぶつ規き制せい管かん理り部ぶ』から言われましてね」
「それは――えっ――ドラゴン?」首相は急せき込んで聞き返した。
「さよう。三頭です」ファッジが言った。「それと、スフィンクスです。では、ご機嫌きげんよう」
首相はドラゴンとスフィンクスこそが極きわめつきで、まさかそれ以上悪くなることはなかろうと願っていた。
ところがである。それから二年と経たたないうち、ファッジがまたしても炎の中から忽然こつぜんと現れた。こんどはアズカバンから集団脱走だっそうしたという知らせだった。
「集団脱走?」聞き返す首相の声がかすれた。
「心配ない、心配ない!」
そう叫さけびながら、ファッジはすでに片足を炎に突っ込んでいた。
「全員たちまち逮捕たいほする――ただ、あなたは知っておくべきだと思って!」
首相が「ちょっと待ってください!」と叫ぶ間もなくファッジは緑色の激はげしい火花の中に姿を消していた。