マスコミや野党やとうが何と言おうと、首相はばかではなかった。ファッジが最初の出会いで請うけ合ったのとは裏腹うらはらに、二人はかなり頻繁ひんぱんに顔を合わせているし、ファッジの慌あわてふためきぶりが毎回ひどくなっていることに、首相は気づいていた。魔法大臣(首相の頭の中では、ファッジを『むこうの大臣』と呼んでいた)のことはあまり考えたくなかったが、この次にファッジが現れるときは、おそらくいっそう深刻しんこくな知らせになるのではないかと懸念けねんしていた。
そして今回、またもや炎の中から現れたファッジは、よれよれの姿でいらいらしていたし、ファッジがなぜやって来たのか理由がはっきりわからないという首相に対して、それを咎とがめるかのように驚おどろいている。そんなファッジの姿を目にしたことこそ、首相にとっては、この暗澹あんたんたる一週間で最悪の事件と言ってもよかった。
「私にわかるはずがないでしょう? その――えー――魔法界で何が起こっているかなんて」こんどは首相がぶっきらぼうに言った。
「私には国政こくせいという仕事がある。いまはそれだけで十分頭痛の種たねなのに、この上――」
「同じ頭痛の種ですよ」ファッジが口を挟はさんだ。
「ブロックデール橋は古くなったわけじゃない。あれは実はハリケーンではなかった。殺人事件もマグルの仕業しわざじゃない。それに、ハーバート・チョーリーは、家に置かないほうが家族にとって安全でしょうな。『聖せいマンゴ魔ま法ほう疾しっ患かん傷しょう害がい病びょう院いん』に移送いそうするよう、現在手配中ですよ。移すのは今夜のはずです」
「どういうこと……私にはどうも……なんだって?」首相が喚わめいた。
ファッジは大きく息を吸すい込んでから話し出した。
「首相閣下かっか、こんなことを言うのは非常に遺憾いかんだが、あの人が戻もどってきました。『名前を言ってはいけないあの人』が戻ったのです」
「戻った?『戻った』とおっしゃるからには……生きていると? つまり――」
首相は三年前のあの恐ろしい会話を思い出し、細かい記憶きおくを手た繰ぐった。ファッジが話してくれた、誰だれよりも恐れられているあの魔法使い、数えきれない恐ろしい罪を犯したあと、十五年前に謎なぞのように姿を消したという魔法使い。
「さよう、生きています」ファッジが答えた。
「つまり――何と言うか――殺すことができなければ、生きているということになりますかな? 私にはどうもよくわからんのです。それに、ダンブルドアはちゃんと説明してくれないし――しかしともかく、『あの人』は肉体を持ち、歩いたりしゃべったり、殺したりしているわけで、ほかに言いようがなければ、さよう、生きていることになりますな」