「『名前を言ってはいけないあの人』は、一月にアズカバンを脱獄だつごくした配下はいかといまや合流したのです」
ファッジはますます早口はやくちになり、山やま高たか帽ぼうを目まぐるしく回転させるものだから、帽子はライムグリーン色にぼやけた円になっていた。
「存在があからさまになって以来、連中は破は壊かい騒動そうどうを引き起こしていましてね。ブロックデール橋――『あの人』の仕業しわざですよ、閣下。私が『あの人』に席を譲ゆずらなければ、マグルを大たい量りょう虐ぎゃく殺さつすると脅おどしをかけてきましてね――」
「なんと、それでは何人かが殺されたのは、あなたのせいだと。それなのに私は、橋の張はり線せんや伸しん縮しゅく継つぎ手ての錆さびとか、そのほか何が飛び出すかわからないような質問に答えなければならない!」首相は声を荒あららげた。
「私のせい!」ファッジの顔に血が上った。「あなたならそういう脅しに従ったかもしれないとおっしゃるわけですか?」
「たぶん、脅しには屈しないでしょう」
首相は立ち上がって部屋の中を往いったり来たりしながら言った。
「しかし、私なら、脅きょう迫はく者しゃがそんな恐ろしいことを引き起こす前に逮捕たいほするよう、全力を尽つくしたでしょうな!」
「私がこれまで全力を尽くしていなかったと、本気でそうお考えですか?」
ファッジが熱くなって問い質ただした。
「魔法省の闇やみ祓ばらいは全員、『あの人』を見つけ出してその一味を逮捕するべくがんばりましたとも――いまでもそうです。しかし、相手はなにしろ史し上じょう最さい強きょうの魔法使いの一人で、ほぼ三十年にわたって逮捕たいほを免まぬかれてきたやつですぞ!」
「それじゃ、西せい部ぶ地ち域いきのハリケーンも、そいつが引き起こしたとおっしゃるのでしょうな?」
首しゅ相しょうは一歩踏ふみ出すごとに癇かん癪しゃくが募つのってきた。一連の恐ろしい惨事さんじの原因がわかっても、国民にそれを知らせることができないとは腹立たしいにもほどがある。政府に責任があるほうがまだましだ。
「あれはハリケーンではなかった」ファッジは惨みじめな言い方をした。
「何ですと!」首相はいまや、足を踏ふみ鳴らして歩き回っていた。
「樹木じゅもくは根こそぎ、屋根は吹っ飛ぶ、街灯がいとうは曲がる、人はひどいけがをする――」
「死し喰くい人びとがやったことでしてね」ファッジが言った。
「『名前を言ってはいけないあの人』の配下はいかですよ。それと……巨人が絡からんでいると睨にらんでいるのですがね」
「何が絡んでいると?」首相は、見えない壁かべに衝しょう突とつしたかのように、ばったり停止ていしした。