火ひ格ごう子しの炎がエメラルド色になって高く燃え上がり、その中心部で独こ楽まのように回っている今夜二人目の魔法使いの姿が見えた。やがてその魔法使いが炎から吐はき出されるように年代物の敷物しきものの上に現れたときも、首相はぴくりともしなかった。ファッジが立ち上がった。しばらく迷ってから首相もそれに倣ならい、到とう着ちゃくしたばかりの人物が身を起こして、長く黒いローブの灰を払い落とし、周まわりを見回すのを見つめた。
年老いたライオンのようだ――バカバカしい印象だが、ルーファス・スクリムジョールを一目見て、首相はそう思った。たてがみのような黄おう褐かっ色しょくの髪かみやふさふさした眉まゆは白しら髪が交まじりで、細縁ほそぶちメガネの奥には黄色味がかった鋭するどい眼めがあった。わずかに足を引きずってはいたが、手足が細長く、軽かろやかで大きな足取りには一種の優雅ゆうがさがあった。俊しゅん敏びんで強きょう靭じんな印象がすぐに伝わってくる。この危き機き的てきなときに、魔法界の指し導どう者しゃとしてファッジよりもスクリムジョールが好まれた理由が、首相にはわかるような気がした。
「初めまして」首相は手を差し出しながら丁寧ていねいに挨あい拶さつした。
スクリムジョールは、部屋中に目を走らせながら軽く握手あくしゅし、ローブから杖つえを取り出した。
「ファッジからすべてお聞きになりましたね?」
スクリムジョールは入口のドアまで大股おおまたで歩いていき、鍵穴かぎあなを杖で叩たたいた。首相の耳に、鍵がかかる音が聞こえた。
「あー――ええ」首相が答えた。
「さしつかえなければ、ドアには施せ錠じょうしないでいただきたいのですが」
「邪魔じゃまされたくないので」スクリムジョールの答えは短かった。
「それに覗のぞかれたくもない」杖を窓に向けると、カーテンが閉まった。
「これでよい。さて、私は忙いそがしい。本題に入りましょう。まず、あなたの安全の話をする必要がある」
首相は可能なかぎり背筋せすじを伸ばして答えた。
「現在ある安全対たい策さくで十分満足しています。ご懸念けねんには――」