ナルシッサはすすり泣くような声を漏もらし、両手で顔を覆おおった。スネイプはグラスをテーブルに置き、椅い子すに深く座り直して両手を肘掛ひじかけに置き、睨にらみつけているベラトリックスに笑いかけた。
「ナルシッサ、ベラトリックスが言いたくてうずうずしていることを聞いたほうがよろしいようですな。さすれば、何度もこちらの話を中断される煩わずらわしさもないだろう。さあ、ベラトリックス、続けたまえ」スネイプが言った。
「我わが輩はいを信用しないというのは、いかなる理由かね?」
「理由は山ほどある!」
ベラトリックスはソファの後ろからずかずかと進み出て、テーブルの上にグラスを叩たたきつけた。
「どこから始めようか! 闇やみの帝てい王おうが倒れたとき、おまえはどこにいた? 帝王が消え去ったとき、どうして一度も探そうとしなかった? ダンブルドアの懐ふところで暮くらしていたこの歳月としつき、おまえはいったい何をしていた? 闇の帝王が『賢者けんじゃの石』を手に入れようとしたとき、おまえはどうして邪魔じゃまをした? 闇の帝王が蘇よみがえったとき、おまえはなぜすぐに戻もどらなかった? 数週間前、闇の帝王のために予言を取り戻そうと我々が戦っていたとき、おまえはどこにいた? それに、スネイプ、ハリー・ポッターはなぜまだ生きているのだ? 五年間もおまえの手しゅ中ちゅうにあったというのに」
ベラトリックスは言葉を切った。胸を激はげしく波打たせ、頬ほおに血が上っている。その背後で、ナルシッサはまだ両手で顔を覆ったまま、身動きもせずに座っていた。
スネイプが笑えみを浮かべた。
「答える前に――ああ、いかにも、ベラトリックス、これから答えるとも! 我輩の言葉を、陰口かげぐちを叩たたいて我輩が闇の帝王を裏切うらぎっているなどと、でっち上げ話をする連中に持ち帰るがよい。――答える前に、そうそう、逆に一つ質問するとしよう。君の質問のどれ一つを取ってみても、闇の帝王が、我輩に質問しなかったものがあると思うかね? それに対して満足のいく答えをしていなかったら、我輩はいまこうしてここに座り、君と話をしていられると思うかね?」
ベラトリックスはたじろいだ。
「あの方がおまえを信じておられるのは知っている。しかし……」
「あの方が間違っていると思うのか? それとも我輩がうまく騙だましたとでも? 不ふ世せい出しゅつの開かい心しん術じゅつの達人たつじんである、もっとも偉大いだいなる魔法使い、闇の帝王に一杯食わせたとでも?」