ベラトリックスは何も言わなかった。しかし、初めてぐらついた様子を見せた。スネイプはそれ以上追及しなかった。再びグラスを取り上げ、一口すすり、言葉を続けた。
「闇やみの帝てい王おうが倒れたとき我わが輩はいがどこにいたかと、そう聞かれましたな。我輩はあの方に命じられた場所にいた。ホグワーツ魔ま法ほう魔ま術じゅつ学校がっこうに。なんとなれば、我輩がアルバス・ダンブルドアをスパイすることを、あの方がお望みだったからだ。闇の帝王の命令で我輩があの職しょくに就ついたことは、ご承しょう知ちだと拝察はいさつするが?」
ベラトリックスはほとんど見えないほどわずかに頷うなずいた。そして口を開こうとしたが、スネイプが機先きせんを制せいした。
「あの方が消え去ったとき、なぜお探ししようとしなかったかと、君はそうお尋たずねだ。理由はほかの者と同じだ。エイブリー、ヤックスリー、カローたち、グレイバック、ルシウス――」
スネイプはナルシッサに軽く頭を下げた。
「そのほかあの方をお探ししようとしなかった者は多数いる。我輩は、あの方はもう滅めっしたと思った。自慢じまんできることではない。我輩は間違っていた。しかし、いまさら詮せんないことだ……。あのときに信念しんねんを失った者たちを、あの方がお許しになっていなかったら、あの方の配下はいかはほとんど残っていなかっただろう」
「私が残った!」ベラトリックスが熱っぽく言った。
「あの方のために何年もアズカバンで過ごした、この私が!」
「なるほど。見上げたものだ」スネイプは気のない声で言った。
「もちろん、牢屋ろうやの中では大してあの方のお役には立たなかったが、しかし、その素そ振ぶりはまさにご立派りっぱ――」
「そぶり!」ベラトリックスが甲高かんだかく叫さけんだ。怒りで狂気じみた表情だった。
「私が吸きゅう魂こん鬼きに耐たえている間、おまえはホグワーツに居残いのこって、ぬくぬくとダンブルドアに寵ちょう愛あいされていた!」
「少し違いますな」スネイプが冷静れいせいに言った。
「ダンブルドアは我輩に、『闇やみの魔ま術じゅつに対する防ぼう衛えい術じゅつ』の仕事を与えようとしなかった。そう。どうやら、それが、あー、ぶり返しにつながるかもしれないと思ったらしく……我輩が昔に引き戻もどされると」