「しかし、おまえは、あの方がお戻もどりになったとき、参上しなかった。闇の印しるしが熱くなったのを感じても、すぐにあの方の下もとに馳はせ参じはしなかった――」
「左様さよう。我輩は二時間後に参上した。ダンブルドアの命を受けて戻った」
「ダンブルドアの――?」ベラトリックスは逆ぎゃく上じょうしたように口を開いた。
「頭を使え!」スネイプが再び苛立ちを見せた。
「考えるがいい! 二時間待つことで、たった二時間のことで、我輩は、確実にホグワーツにスパイとしてとどまれるようにした! 闇の帝王の側がわに戻るよう命を受けたから戻るにすぎないのだと、ダンブルドアに思い込ませることで、以来ずっと、ダンブルドアや不ふ死し鳥ちょうの騎き士し団だんについての情報を流すことができた! いいかね、ベラトリックス。闇の印が何ヵ月にもわたってますます強力になってきていた。我輩はあの方がまもなくお戻りになるに違いないとわかっていたし、死喰い人は全員知っていた! 我輩が何をすべきか、次の動きをどうするか、カルカロフのように逃げ出すか、考える時間は十分にあった。そうではないか?」
「我輩が遅おくれたことで、はじめは闇の帝王のご不ふ興きょうを買った。しかし我輩の忠ちゅう誠せいは変わらないとご説明申し上げたとき、いいかな、そのご立腹は完全に消え去ったのだ。もっともダンブルドアは我輩が味方だと思っていたがね。左様。闇の帝王は、我輩が永久にお側そばを去ったとお考えになったが、帝てい王おうが間違っておられた」
「しかし、おまえが何の役に立った?」
ベラトリックスが冷笑した。
「我々はおまえからどんな有用な情報をもらったというのだ?」
「我わが輩はいの情報は闇やみの帝王に直接お伝えしてきた」スネイプが言った。
「あの方がそれを君に教えないとしても――」
「あの方は私にすべてを話してくださる!」
ベラトリックスはたちまち激昂げっこうした。
「私のことを、もっとも忠実な者、もっとも信頼しんらいできる者とお呼びになる――」
「なるほど?」スネイプの声が微び妙みょうに屈折くっせつし、信じていないことを匂におわせた。
「いまでもそうかね? 魔法省での大失敗のあとでも?」
「あれは私のせいではない!」
ベラトリックスの顔がさっと赤くなった。
「過去において、闇の帝王は、もっとも大切なものを常に私に託たくされた――ルシウスがあんなことをしな――」
「よくもそんな――夫を責せめるなんて、よくも!」
ナルシッサが姉を見上げ、低い、凄すごみの効きいた声で言った。