「それで、これだけあれこれあったのに、ダンブルドアが一度もおまえを疑わなかったと信じろというわけか?」ベラトリックスが聞いた。
「おまえの忠誠心の本性を、ダンブルドアは知らずに、いまだにおまえを心底しんそこ信用しているというのか?」
「我わが輩はいは役柄やくがらを上手に演じてきた」スネイプが言った。
「それに、君はダンブルドアの大きな弱点を見逃している。あの人は、人の善なる性さがを信じずにはいられないという弱みだ。我輩が、まだ死し喰くい人びと時代のほとぼりも冷さめやらぬころにダンブルドアのスタッフに加わったとき、心からの悔悟かいごの念を縷る々る語って聞かせた。するとダンブルドアは両もろ手てを挙げて我輩を迎え入れた――ただし、先刻せんこくも言ったとおり、できうるかぎり、我輩を闇やみの魔ま術じゅつに近づけまいとした。ダンブルドアは偉大いだいな魔法使いだ(ベラトリックスが痛烈つうれつな反論の声を上げた)――ああ、たしかにそうだとも。闇の帝てい王おうも認めている。ただ、喜ばしいことに、ダンブルドアは年老いてきた。闇の帝王との先月の決闘は、ダンブルドアを動どう揺ようさせた。その後も、動きにかつてほどの切れがなくなり、ダンブルドアは深手ふかでを負った。しかしながら、長年にわたって一度も、このセブルス・スネイプへの信頼しんらいは途と切ぎれたことがない。それこそが、闇の帝王にとっての我輩の大きな価値なのだ」
ベラトリックスはまだ不満そうだったが、どうやってスネイプに次の攻撃こうげきを仕し掛かけるべきか迷っているようだった。その沈ちん黙もくに乗じょうじて、スネイプは妹のほうに水を向けた。
「さて……我輩に助けを求めにおいででしたな、ナルシッサ?」
ナルシッサがスネイプを見上げた。絶望がはっきりとその顔に書いてある。
「ええ、セブルス。わ――私を助けてくださるのは、あなたしかいないと思います。ほかには誰だれも頼たよる人がいません。ルシウスは牢獄ろうごくで、そして……」
ナルシッサは目をつむった。二粒ふたつぶの大きな涙が瞼まぶたの下から溢あふれ出した。
「闇の帝王は、私がその話をすることを禁じました」
ナルシッサは目を閉じたまま言葉を続けた。
「誰にもこの計画を知られたくないとお望みです。とても……厳げん重じゅうな秘密なのです。でも――」
「あの方が禁じたのなら、話してはなりませんな」スネイプが即座そくざに言った。
「闇の帝王の言葉は法律ですぞ」