ナルシッサは、スネイプに冷水を浴びせられたかのように息を呑のんだ。ベラトリックスはこの家に入ってから初めて満足げな顔をした。
「ほら!」ベラトリックスが勝ち誇ほこったように妹に言った。
「スネイプでさえそう言ってるんだ。しゃべるなと言われたんだから、黙だまっていなさい!」
しかしスネイプは、立ち上がって小さな窓のほうにつかつかと歩いていき、カーテンの隙間すきまから人気ひとけのない通りをじっと覗のぞくと、再びカーテンをぐいと閉めた。そしてナルシッサを振り返り、顔をしかめてこう言った。
「たまたまではあるが、我輩はあの方の計画を知っている」スネイプが低い声で言った。
「闇やみの帝てい王おうが打ち明けた数少ない者の一人なのだ。それはそうだが、ナルシッサ、我わが輩はいが秘密を知る者でなかったなら、あなたは闇の帝王に対する重大な裏切うらぎりの罪を犯おかすことになったのですぞ」
「あなたはきっと知っていると思っていましたわ!」
ナルシッサの息遣いきづかいが少し楽になった。
「あの方は、セブルス、あなたのことをとてもご信頼しんらいで……」
「おまえが計画を知っている?」
ベラトリックスが一いっ瞬しゅん浮かべた満足げな表情は、怒りに変わっていた。
「おまえが知っている?」
「いかにも」スネイプが言った。
「しかし、ナルシッサ、我輩にどう助けてほしいのかな? 闇の帝王のお気持が変わるよう、我輩が説得せっとくできると思っているなら、気の毒だが望みはない。まったくない」
「セブルス」ナルシッサが囁ささやくように言った。蒼あお白じろい頬ほおを涙が滑すべり落ちた。
「私の息子……たった一人の息子……」
「ドラコは誇ほこりに思うべきだ」ベラトリックスが非情に言い放はなった。
「闇の帝王はあの子に大きな名誉めいよをお与えになった。それに、ドラコのためにはっきり言っておきたいが、あの子は任務にんむに尻込しりごみなどしていない。自分の力を証明するチャンスを喜び、期待に心を躍おどらせて――」
ナルシッサはすがるようにスネイプを見つめたまま、本当に泣き出した。