「それはあの子が十六歳で、何が待ち受けているのかを知らないからだわ! セブルス、どうしてなの? どうして私の息子が? 危険すぎるわ! これはルシウスが間違いを犯したことへの報復ほうふくなんだわ、ええそうなのよ!」
スネイプは何も言わず、涙が見苦しいものであるかのように、ナルシッサの泣き顔から目を背そむけていた。しかし聞こえないふりはできなかった。
「だからあの方はドラコを選んだのよ。そうでしょう?」ナルシッサは詰め寄った。
「ルシウスを罰するためでしょう?」
「ドラコが成功すれば――」
ナルシッサから目を背そむけたまま、スネイプが言った。
「ほかの誰だれよりも高い栄誉えいよを得るだろう」
「でも、あの子は成功しないわ!」ナルシッサがすすり上げた。
「あの子にどうしてできましょう? 闇の帝王ご自身でさえ――」
ベラトリックスが息を呑のんだ。ナルシッサはそれで気が挫くじけたようだった。
「いえ、つまり……まだ誰も成功したことがないのですし……セブルス……お願い……あなたは初めから、そしていまでもドラコの好きな先生だわ……ルシウスの昔からの友人で……おすがりします……あなたは闇やみの帝てい王おうのお気に入りで、相談役としていちばん信用されているし……お願いです。あの方にお話しして、説得せっとくして――?」
「闇の帝王は説得される方ではない。それに我わが輩はいも、説得しようとするほど愚おろかではない」
スネイプはすげなく言った。
「我輩としては、闇の帝王がルシウスにご立腹ではないなどと取り繕つくろうことはできない。ルシウスは指し揮きを執とるはずだった。自分自身が捕まってしまったばかりか、ほかに何人も捕まった。おまけに予言を取り戻もどすことにも失敗した。さよう、闇の帝王はお怒りだ。ナルシッサ、非常にお怒りだ」
「それじゃ、思ったとおりだわ。あの方は見せしめのためにドラコを選んだのよ!」
ナルシッサは声を詰まらせた。
「あの子を成功させるおつもりではなく、途中で殺されることがお望みなのよ!」
スネイプが黙だまっていると、ナルシッサは最後にわずかに残った自じ制せい心しんさえ失ったかのようだった。立ち上がってよろよろとスネイプに近づき、ローブの胸元をつかんだ。顔をスネイプの顔に近づけ、涙なみだをスネイプの胸元にこぼしながら、ナルシッサは喘あえいだ。
「あなたならできるわ。ドラコの代わりに、セブルス、あなたならできる。あなたは成功するわ。きっと成功する。そうすればあの方は、あなたにほかの誰だれよりも高い報ほう奨しょうを――」