記事の続きは大きな鳥籠とりかごの下に隠かくれて見えない。籠の中には見事な白ふくろうがいた。琥珀こはく色の眼めで部屋を睥睨へいげいし、ときどき首をぐるりと回しては、いびきをかいているご主人様をじっと見つめた。一、二度、もどかしそうに嘴くちばしを鳴らしたが、ぐっすり眠り込んでいるハリーには聞こえなかった。
大きなトランクが部屋のまん中に置かれていた。蓋ふたが開いている。受け入れ態勢たいせい十分の雰囲ふんい気きだ。しかし、トランクの底を覆おおう程度に、着古した下着の残骸ざんがいや菓子類、空のインク瓶びんや折れた羽根ペンなどがあるだけで、ほとんど空っぽだ。そのそばの床には、紫色のパンフレットが落ちていて、目立つ文字でこう書いてあった。
魔法省公報こうほう
あなたの家と家族を闇やみの力から護まもるには
魔法界は現在、死し喰くい人びとと名乗る組織の脅きょう威いにさらされています。次の簡単な安全指針を遵じゅん守しゅすれば、あなた自身と家族、そして家を攻撃から護るのに役立ちます。
1.一人で外出しないこと
2.暗くなってからは特に注意すること。外出は、可能なかぎり暗くなる前に完了するよう段取だんどりすること
3.家の周まわりの安全対策を見直し、家族全員が、「盾たての呪じゅ文もん」、「目くらまし呪文」、未成年の家族の場合は「付き添い姿くらまし」術などの緊きん急きゅう措そ置ちについて認識するよう確認すること
4.親しい友人や家族の間で通用する安全のための質問事項を決め、ポリジュース薬やく(二頁参さん照しょう)使用によって他人になりすました死喰い人を見分けられるようにすること
5.家族、同どう僚りょう、友人または近所の住人の行動がおかしいと感じた場合は、すみやかに魔ま法ほう警けい察さつ部ぶ隊たいに連絡すること。「服ふく従じゅうの呪文」(四頁参照)にかかっている可能性がある
6.住宅その他の建物の上に闇やみの印しるしが現れた場合は、入るべからず。ただちに闇やみ祓ばらい局きょくに連絡すること
7.未確認の目もく撃げき情報によれば、死喰い人が「亡者もうじゃ」(十頁参照)を使っている可能性がある。「亡者」を目撃した場合、または遭遇そうぐうした場合は、ただちに魔法省に報告すること
ハリーは眠りながら唸うなった。窓伝いに顔が数センチ滑すべり落ち、メガネがさらにずり落ちたが、目を覚まさない。何年か前にハリーが修理した目覚まし時計が、窓の下枠したわくに置かれてチクタク大きな音を立てながら、十一時一分前を指していた。そのすぐ脇わきには羊よう皮ひ紙しが一枚、ハリーのぐったりした手で押さえられていて、斜めに細長い文字が書きつけてある。三日前に届いた手紙だが、ハリーがそれ以来何度も読み返したせいで、固く巻かれていた羊皮紙が、いまではまっ平らになっていた。