「あなたの唖然あぜんとした疑惑ぎわくの表情から察するに、ハリーは、わしの来訪らいほうを前もって警告けいこくしなかったのですな」ダンブルドアは機嫌きげんよく言った。
「しかしながら、あなたがわしを暖かくお宅に招しょうじ入れたということにいたしましょうぞ。この危険な時代に、あまり長く玄関口にぐずぐずしているのは賢明けんめいではないからのう」
ダンブルドアはすばやく敷居しきいを跨またいで中に入り、ドアを閉めた。
「前回お訪たずねしたのは、ずいぶん昔じゃった」
ダンブルドアは曲がった鼻の上からバーノンおじさんを見下ろした。
「アガパンサスの花が実に見事ですのう」
バーノン・ダーズリーはまったく何も言わない。ハリーは、おじさんが間違いなく言葉を取り戻もどすと思った。しかももうすぐだ――おじさんのこめかみのピクピクが危険な沸ふっ騰とう点てんに達していた――しかし、ダンブルドアの持つ何かが、おじさんの息を一時的に止めてしまったかのようだった。ダンブルドアの格好かっこうがずばり魔法使いそのものだったせいかもしれないし、もしかしたら、バーノンおじさんでさえ、この人物には脅おどしがきかないと感じたせいなのかもしれない。
「ああ、ハリー、こんばんは」
ダンブルドアは大満足の表情で、半月メガネの上からハリーを見上げた。
「上じょう々じょう、上々」
この言葉でバーノンおじさんは奮ふるい立ったようだった。バーノンおじさんにしてみれば、ハリーを見て「上々」と言うような人物とは、絶対に意見が合うはずはないのだ。
「失礼になったら申しわけないが――」
おじさんが切り出した。一言一言に失礼さがちらついている。
「――しかし、悲しいかな、意図せざる失礼が驚くほど多いものじゃ」
ダンブルドアは重々しく文章を完結させた。
「なれば、何も言わぬがいちばんじゃ。ああ、これはペチュニアとお見受けする」
キッチンのドアが開いて、そこにハリーのおばがゴム手袋をはめ、寝巻きの上に部屋着を羽は織おって立っていた。明らかに、寝る前のキッチン徹底てってい磨みがき上げの最中らしい。かなり馬に似たその顔にはショック以外の何も読み取れない。