ダンブルドアはすばやく杖つえを取り出した。あまりの速さにハリーにはほとんど杖が見えなかった。軽く一振ひとふりすると、ソファーが飛ぶように前進して、ダーズリー一家三人の膝ひざを後ろからすくい、三人は束たばになってソファーに倒れた。もう一度杖を振ると、ソファーはたちまち元の位置まで後退した。
「居い心ごこ地ちよくしようのう」ダンブルドアが朗ほがらかに言った。
ポケットに杖つえをしまうとき、その手が黒く萎しなびていることにハリーは気がついた。肉が焼け焦こげて落ちたかのようだった。
「先生――どうなさったのですか、その――?」
「ハリー、あとでじゃ」ダンブルドアが言った。「お掛かけ」
ハリーは残っている肘ひじ掛かけ椅い子すに座り、驚いて口もきけないダーズリー一家のほうを見ないようにした。
「普通なら茶さ菓かでも出してくださるものじゃが」ダンブルドアがバーノンおじさんに言った。
「しかし、これまでの様子から察するに、そのような期待は、楽観的すぎてばかばかしいと言えるじゃろう」
三度目の杖がピクリと動き、空中から埃ほこりっぽい瓶びんとグラスが五個現れた。瓶が傾いて、それぞれのグラスに蜂はち蜜みつ色いろの液体をたっぷりと注ぎ入れ、グラスがふわふわと五人のもとに飛んでいった。
「マダム・ロスメルタの最高級オーク樽だる熟じゅく成せい蜂はち蜜みつ酒しゅじゃ」
ダンブルドアはハリーに向かってグラスを挙げた。ハリーは自分のグラスを捕まえ、一口すすった。これまでに味わったことのない飲み物だったが、とてもおいしかった。ダーズリー一家は互いに恐こわ々ごわ顔を見合わせたあと、自分たちのグラスを完全に無視しようとした。しかしそれは至難しなんの業わざだった。なにしろグラスが、三人の頭を脇わきから軽く小こ突づいていたからだ。ハリーはダンブルドアが大いに楽しんでいるのではないかという気持を打ち消せなかった。