ダンブルドアは空のグラスを椅い子すの脇わきの小さなテーブルに置いたが、次の行動に移る間を与えず、バーノンおじさんが叫さけんだ。
「このいまいましいやつを、どっかにやってくれんか?」
ハリーが振り返ると、ダーズリー家の三人が、腕で頭をかばってしゃがみ込んでいた。グラスが三人それぞれの頭を上下に飛び跳はね、中身がそこら中に飛び散っていた。
「おお、すまなんだ」ダンブルドアは礼儀れいぎ正しくそう言うと、また杖つえを上げた。三つのグラスが全部消えた。「しかし、お飲みくださるのが礼儀というものじゃよ」
バーノンおじさんは、嫌味いやみの連発で応おう酬しゅうしたくてたまらなそうな顔をしたが、ダンブルドアの杖に豚ぶたのようにちっぽけな目を止めたまま、ペチュニアやダドリーと一いっ緒しょに小さくなってクッションに身を沈め、黙だまり込んだ。
「よいかな」ダンブルドアは、バーノンおじさんが何も叫ばなかったかのように、ハリーに向かって再び話しかけた。
「きみが屋敷を相続したとすれば、もう一つ相続するものが――」
ダンブルドアはひょいと五度目の杖を振った。バチンと大きな音がして、屋敷しもべ妖よう精せいが現れた。豚のような鼻はな、コウモリのような巨大な耳、血走った大きな目のしもべ妖精が、垢あかべっとりのボロを着て、毛足の長い高級そうなカーペットの上にうずくまっている。ペチュニアおばさんが、身の毛もよだつ叫びを上げた。こんな汚らしいものが家に入ってきたのは、人生始まって以来のことなのだ。ダドリーはでっかいピンク色の裸足はだしの両足を床から離し、ほとんど頭の上まで持ち上げて座った。まるでこの生き物が、パジャマのズボンに入り込んで駆かけ上がってくるとでも思ったようだ。バーノンおじさんは「一いっ体たい全ぜん体たい、こいつは何だ?」と喚わめいた。
「――クリーチャーじゃ」ダンブルドアが最後の言葉を言い終えた。
「クリーチャーはしない、クリーチャーはしない、クリーチャーはそうしない!」
しもべ妖精は、しわがれ声でバーノンおじさんと同じぐらい大声を上げ、節ふしくれだった長い足で地じ団だん駄だを踏ふみながら自分の耳を引っぱった。
「クリーチャーはミス・ベラトリックスのものですから、ああ、そうですとも、クリーチャーはブラック家のものですから、クリーチャーは新しい女主人様がいいのですから、クリーチャーはポッター小僧には仕つかえないのですから、クリーチャーはそうしない、しない、しない――」