「ところで、あれは何の血だったのかね?」
再生した床ゆか置おき時ど計けいのチャイムの音ねにかき消されないように声を張り上げて、ダンブルドアが聞いた。
「ああ、あの壁かべか? ドラゴンだ」
ホラスと呼ばれた魔法使いが、シャンデリアがひとりでに天井にねじ込まれるガリガリ、チャリンチャリンというやかましい音に混じって叫さけんだ。
最後にピアノがポロンと鳴り、そして静せい寂じゃくが訪れた。
「ああ、ドラゴンだ」
ホラスが気軽な口調で繰くり返した。
「わたしの最後の一本だが、このごろ値段ねだんは天井知らずでね。いや、まだ使えるかもしれん」
ホラスはドスドスと食しょっ器き棚だなの上に置かれたクリスタルの小瓶こびんに近づき、瓶を明かりにかざして中のどろりとした液体を調べた。
「フム、ちょっと埃ほこりっぽいな」
ホラスは瓶を戸棚とだなの上に戻もどし、ため息をついた。ハリーに視線しせんが行ったのはそのときだった。
「ほほう」
丸い大きな目がハリーの額ひたいに、そしてそこに刻きざまれた稲いな妻ずま形がたの傷に飛んだ。
「ほっほう!」
「こちらは」
ダンブルドアが紹介をするために進み出た。
「ハリー・ポッター。ハリー、こちらが、わしの古い友人で同どう僚りょうのホラス・スラグホーンじゃ」
スラグホーンは、抜け目のない表情でダンブルドアに食ってかかった。
「それじゃあ、その手でわたしを説得せっとくしようと考えたわけだな? いや、答えはノーだよ、アルバス」
スラグホーンは決然けつぜんと顔を背けたまま、誘惑ゆうわくに抵抗ていこうする雰ふん囲い気きを漂ただよわせて、ハリーのそばを通り過ぎた。
「一いっ緒しょに一杯飲むぐらいのことはしてもよかろう?」ダンブルドアが問いかけた。
「昔のよしみで?」
スラグホーンはためらった。
「よかろう、一杯だけだ」スラグホーンは無ぶ愛あい想そうに言った。