「彼がなぜ君を連れてきたか、わからんわけではないぞ」スラグホーンが唐突とうとつに言った。
ハリーはただスラグホーンを見た。スラグホーンの潤うるんだ目が、こんどは傷きず痕あとの上を滑すべるように見ただけでなく、ハリーの顔全体も眺ながめた。
「君は父親にそっくりだ」
「ええ、みんながそう言います」ハリーが言った。
「目だけが違う。君の目は――」
「ええ、母の目です」何度も聞かされて、ハリーは少しうんざりしていた。
「フン。うん、いや、教師として、もちろん依え怙こ贔ひい屓きすべきではないが、彼女はわたしの気に入りの一人だった。君の母親のことだよ」
ハリーの物問ものといたげな顔に応こたえて、スラグホーンが説明をつけ加えた。
「リリー・エバンズ。教え子の中でも、頭ず抜ぬけた一人だった。そう、生き生きとしていた。魅み力りょく的てきな子だった。わたしの寮りょうに来るべきだったと、彼女によくそう言ったものだが、いつも悪戯いたずらっぽく言い返されたものだった」
「どの寮だったのですか?」
「わたしはスリザリンの寮りょう監かんだった」スラグホーンが答えた。
「それ、それ」
ハリーの表情を見て、ずんぐりした人指し指をハリーに向かって振りながら、スラグホーンが急いで言葉を続けた。
「そのことでわたしを責せめるな! 君は彼女と同じくグリフィンドールなのだろうな? そう、普通は家系かけいで決まる。必ずしもそうではないが。シリウス・ブラックの名を聞いたことがあるか? 聞いたはずだ――この数年、新聞に出ていた――数週間前に死んだな――」
見えない手が、ハリーの内臓をギュッとつかんでねじったかのようだった。
「まあ、とにかく、シリウスは学校で君の父親の大の親友だった。ブラック家は全員わたしの寮だったが、シリウスはグリフィンドールに決まった。残念だ――能力ある子だったのに。弟のレギュラスが入学して来たときは獲得かくとくしたが、できれば一揃ひとそろいほしかった」