スラグホーンは一ひと呼こ吸きゅう、二呼吸、空くうを見つめた。ハリーの言ったことを噛かみしめているようだった。
「まあ、そうだ。たしかに、『名前を呼んではいけないあの人』はダンブルドアとは決して戦たたかおうとはしなかった」
スラグホーンはしぶしぶ呟つぶやいた。
「それに、わたしが死し喰くい人びとに加わらなかった以上、『名前を呼んではいけないあの人』がわたしを友とみなすとはとうてい思えない、とも言える……その場合は、わたしはアルバスともう少し近しいほうが安全かもしれん……アメリア・ボーンズの死が、わたしを動揺どうようさせなかったとは言えない……あれだけ魔法省に人じん脈みゃくがあって保ほ護ごされていたのに、その彼女が……」
ダンブルドアが部屋に戻もどってきた。スラグホーンはまるでダンブルドアが家にいることを忘れていたかのように飛び上がった。
「ああ、いたのか、アルバス。ずいぶん長かったな。腹でもこわしたか?」
「いや、マグルの雑誌を読んでいただけじゃ」ダンブルドアが言った。
「編あみ物もののパターンが大好きでな。さて、ハリー、ホラスのご好意にだいぶ長々と甘えさせてもろうた。暇いとまする時間じゃ」
ハリーはまったく躊ちゅう躇ちょせずに従い、すぐに立ち上がった。スラグホーンは狼狽ろうばいした様子だった。
「行くのか?」
「いかにも。勝しょう算さんのないものは、見ればそうとわかるものじゃ」
「勝算がない……?」
スラグホーンは、気持が揺ゆれているようだった。ダンブルドアが旅行用マントの紐ひもを結び、ハリーが上着のジッパーを閉めるのを見つめながら、ずんぐりした親指同士をくるくる回してそわそわしていた。
「さて、ホラス、きみが教きょう職しょくを望まんのは残念じゃ」
ダンブルドアは傷ついていないほうの手を挙げて別れの挨あい拶さつをした。
「ホグワーツは、きみが再び戻もどれば喜んだであろうがのう。我々の安全対たい策さくは大いに増強されてはおるが、きみの訪問ならいつでも歓迎かんげいしましょうぞ。きみがそう望むなら、じゃが」
「ああ……まあ……ご親切に……どうも……」
「では、さらばじゃ」
「さようなら」ハリーが言った。