「ホラスは――」
ダンブルドアが話を切り出し、ハリーは、何か答えなければならないという重じゅう圧あつから解放かいほうされた。
「快適さが好きなのじゃ。それに、有名で、成功した力のある者と一いっ緒しょにいることも好きでのう。そういう者たちに自分が影えい響きょうを与えていると感じることが楽しいのじゃ。決して自分が王座に着きたいとは望まず、むしろ後方の席が好みじゃ――それ、ゆったりと体を伸ばせる場所がのう。ホグワーツでもお気に入りを自みずから選んだ。ときには野心や頭脳ずのうにより、ときには魅み力りょくや才能によって、さまざまな分野でやがては抜きん出るであろう者を選び出すという、不思議な才能を持っておった。ホラスはお気に入りを集めて、自分を取り巻くクラブのようなものを作った。そのメンバー間で人を紹介したり、有用な人じん脈みゃくを固めたりして、その見返りに常に何かを得ていた。好物の砂さ糖とう漬づけパイナップルの箱詰はこづめだとか、小鬼ゴブリン連れん絡らく室しつの次の室しつ長ちょう補ほ佐さを推薦すいせんする機会だとか」
突然、ハリーの頭の中に、膨ふくれ上がった大おお蜘ぐ蛛もが周囲に糸を紡つむぎ出し、あちらこちらに糸をひっかけ、大きくておいしそうな蝿はえを手元に手た繰ぐり寄せる姿が、生々なまなましく浮かんだ。
「こういうことをきみに聞かせるのは」
ダンブルドアが言葉を続けた。
「ホラスに対して――これからスラグホーン先生とお呼びしなければならんのう――悪感情を持たせるためではなく、きみに用心させるためじゃ。間違いなくあの男は、きみを蒐しゅう集しゅうしようとする。きみは蒐集物の中の宝石になるじゃろう。『生き残った男の子』……または、このごろでは『選ばれし者』と呼ばれておるのじゃからのう」
その言葉で、周まわりの霧きりとは何の関係もない冷気がハリーを襲おそった。数週間前に聞いた言葉を思い出したのだ。恐ろしい、ハリーにとって特別な意味のある言葉を。
「一方いっぽうが生きるかぎり、他方たほうは生きられぬ……」
ダンブルドアは、さっき通った教会のところまで来ると歩ほを止めた。
「このあたりでいいじゃろう、ハリー。わしの腕につかまるがよい」
こんどは覚悟ができていたので、ハリーは「姿すがた現あらわし」する態たい勢せいになっていたが、それでも快適ではなかった。締しめつける力が消えて、再び息ができるようになったとき、ハリーは田舎いなか道みちでダンブルドアの脇わきに立っていた。目の前に、世界で二番目に好きな建物のくねくねした影が見えた。「隠かくれ穴あな」だ。たったいま体中に走った恐きょう怖ふにもかかわらず、その建物を見ると自然に気持が昂たかぶった。あそこにロンがいる……ハリーが知っている誰だれよりも料理が上手なウィーズリーおばさんも……。