「ハリー、ちょっとよいかな」
門を通り過ぎながらダンブルドアが言った。
「別れる前に、少しきみと話がしたい。二人きりで。ここではどうかな?」
ダンブルドアはウィーズリー家の箒ほうきがしまってある、崩くずれかかった石の小屋を指差した。何だろうと思いながら、ハリーはダンブルドアに続いて、キーキー鳴る戸をくぐり、普通の戸棚とだなより少し小さいくらいの小屋の中に入った。ダンブルドアは杖つえ先さきに明かりを灯ともし、松明たいまつのように光らせて、ハリーに微笑ほほえみかけた。
「このことを口にするのを許してほしいのじゃが、ハリー、魔法省でいろいろとあったにもかかわらず、よう耐たえておると、わしはうれしくもあり、きみを少し誇ほこらしくも思うておる。シリウスもきみを誇りに思ったじゃろう。そう言わせてほしい」
ハリーはぐっと唾つばを飲んだ。声がどこかへ行ってしまったようだった。シリウスの話をするのは耐えられないと思った。バーノンおじさんが「名付け親が死んだと?」と言うのを聞いただけでハリーは胸が痛んだし、シリウスの名前がスラグホーンの口から気軽に出てくるのを聞くのはなお辛つらかった。
「残酷ざんこくなことじゃ」ダンブルドアが静かに言った。
「きみとシリウスがともに過ごした時間はあまりにも短かった。長く幸せな関係になるはずだったものを、無残むざんな終わり方をした」
ダンブルドアの帽子ぼうしを登りはじめたばかりの蜘く蛛もから目を離すまいとしながら、ハリーは頷うなずいた。ハリーにはわかった。ダンブルドアは理解してくれているのだ。そしてたぶん見抜いているのかもしれない。ダンブルドアの手紙が届くまでは、ダーズリーの家で、ハリーが食事も摂とらずほとんどベッドに横たわったままで、霧深きりぶかい窓を見つめていたことを。そして吸きゅう魂こん鬼きがそばにいるときのように、冷たく虚むなしい気持に沈んでいたことをも。
「信じられないんです」
ハリーはやっと低い声で言った。
「あの人がもう僕に手紙をくれないなんて」
突然目め頭がしらが熱くなり、ハリーは瞬まばたきした。あまりにも些細ささいなことなのかもしれないが、ホグワーツの外に、まるで両親のようにハリーの身の上を心配してくれる人がいるということこそ、名付け親がいるとわかった大きな喜びだった……もう二度と、郵便ゆうびん配達ふくろうがその喜びを運んでくることはない……。