「ウィーズリーおじさんは、まだお仕事中ですか?」ハリーが聞いた。
「そうなのよ。実は、ちょっとだけ遅すぎるんだけど……真夜中ごろには戻もどるって言っていたから……」
おばさんはテーブルの端はしに置いてある洗せん濯たく物もの籠かごに目をやった。籠に積まれたシーツの山の上に、大きな時計が危なっかしげに載のっていた。ハリーはすぐその時計を思い出した。針が九本、それぞれに家族の名前が書いてある。いつもはウィーズリー家の居い間まに掛かかっているが、いま置いてある場所から考えると、ウィーズリーおばさんが家中持ち歩いているらしい。九本全部がいまや「命が危ない」を指していた。
「このところずっとこんな具合なのよ」
おばさんが何気ない声で言おうとしているのが、見え透すいていた。
「『例のあの人』のことが明るみに出て以来ずっとそうなの。いまは、誰だれもが命が危ない状況なのでしょうけれど……うちの家族だけということはないと思うわ……でも、ほかにこんな時計を持っている人を知らないから、確かめようがないの。あっ!」
急に叫さけび声を上げ、おばさんが時計の文も字じ盤ばんを指した。ウィーズリーおじさんの針が回って「移動中」になっていた。
「お帰りだわ!」
そしてそのとおり、まもなく裏口うらぐちの戸を叩たたく音がした。ウィーズリーおばさんは勢いよく立ち上がり、ドアへと急いだ。片手をドアの取っ手にかけ、顔を木のドアに押しつけて、おばさんが小声で呼びかけた。
「アーサー、あなたなの?」
「そうだ」
ウィーズリーおじさんの疲れた声が聞こえた。
「しかし、私が『死し喰くい人びと』だったとしても同じことを言うだろう。質問しなさい!」
「まあ、そんな……」
「モリー!」
「はい、はい……あなたのいちばんの望みは何?」
「飛行機がどうして浮いていられるのかを解明かいめいすること」
ウィーズリーおばさんは頷うなずいて、取っ手を回そうとした。ところが向こう側でウィーズリーおじさんがしっかり取っ手を押さえているらしく、ドアは頑がんとして閉じたままだった。