ハリーにはその気持がわかるような気がしたが、シリウスの死やほかの悲惨ひさんなことを、いまは話したくなかった。
「いま何時? 朝食を食べ損そこねたのかなあ?」ハリーが言った。
「心配するなよ。ママがお盆を運んでくるから。君が十分食ってない様子だって思ってるのさ」
まったくママらしいよと言いたげに、ロンは目をぐりぐりさせた。
「それで、最近どうしてた?」
「別に。おじとおばのところで、どうにも動きが取れなかっただろ?」
「嘘うそつけ!」ロンが言った。「ダンブルドアと一いっ緒しょに出かけたじゃないか!」
「そんなにわくわくするようなものじゃなかったよ。ダンブルドアは、昔の先生を引退生活から引きずり出すのを、僕に手伝ってほしかっただけさ。名前はホラス・スラグホーン」
「なんだ」ロンががっかりしたような顔をした。
「僕たちが考えてたのは――」
ハーマイオニーがさっと警告けいこくするような目でロンを見た。ロンは超ちょうスピードで方向転てん換かんした。
「――考えてたのは、たぶん、そんなことだろうってさ」
「ほんとか?」ハリーは、おかしくて聞き返した。
「ああ……そうさ、アンブリッジがいなくなったし、当然新しい『闇やみの魔ま術じゅつに対する防ぼう衛えい術じゅつ』の先生がいるだろ? だから、えーと、どんな人?」
「ちょっとセイウチに似てる。それに、前はスリザリンの寮りょう監かんだった。ハーマイオニー、どうかしたの?」
ハーマイオニーは、いまにも奇き妙みょうな症しょう状じょうが現れるのを待つかのように、ハリーを見つめていたが、慌あわてて曖昧あいまいに微笑ほほえみ、表情を取り繕つくろった。
「ううん、何でもないわ、もちろん! それで、んー、スラグホーンはいい先生みたいだった?」
「わかんない」ハリーが答えた。「アンブリッジ以下ってことは、ありえないだろ?」
「アンブリッジ以下の人、知ってるわ」
入口で声がした。ロンの妹がいらいらしながら、突つっかかるように前屈まえかがみの格好かっこうで入ってきた。
「おっはよ、ハリー」