「お盆を持って上がる必要はなかったのよ。私が自分でそうするところだったのに!」
「なんでもありませーん」
そう言いながら、フラー・デラクールは盆をハリーの膝ひざに載せ、ふわーっと屈かがんでハリーの両りょう頬ほほにキスした。ハリーはその唇くちびるが触ふれたところが焼けるような気がした。
「わたし、このいひとに、とても会いたかったでーす。わたしのシースタのガブリエール、あなた覚えてますか? 『アハリー・ポター』のこと、あの子、いつもあはなしていまーす。また会えると、きーっとよろこびます」
「あ……あの子もここにいるの?」ハリーの声がしゃがれた。
「いえ、いーえ、おばかさーん」
フラーは玉を転がすように笑った。
「来年の夏でーす。そのときわたしたち――あら、あなた知らないですか?」
フラーは大きな青い目を見開いて、非難ひなんするようにウィーズリー夫人を見た。おばさんは「まだハリーに話す時間がなかったのよ」と言った。
フラーは豊かなブロンドの髪を振ってハリーに向き直り、その髪がウィーズリー夫人の顔を鞭むちのように打った。
「わたし、ビルと結婚しまーす!」
「ああ」
ハリーは無表情に言った。ウィーズリーおばさんもハーマイオニーもジニーも、決して目を合わせまいとしていることに、いやでも気づかないわけにはいかなかった。
「ウワー、あ――おめでとう!」
フラーはまた踊おどりかかるように屈んで、ハリーにキスした。
「ビルはいま、とーても忙しいです。アハードにあはたらいていまーす。そして、わたし、グリンゴッツでパートタイムであはたらいていまーす。えーいごのため。それで彼、わたしをしばらーくここに連れてきました。家族のいひとを知るためでーす。あなたがここに来るというあはなしを聞いてうれしかったでーす。――お料理と鶏とりが好きじゃないと、ここはあまりすることがありませーん! じゃ――朝食を楽しーんでね、アハリー!」
そう言い終えると、フラーは優雅ゆうがに向きを変え、ふわーっと浮かぶように部屋を出ていき、静かにドアを閉めた。
ウィーズリーおばさんが何か言ったが、「シッシッ!」と聞こえた。