どんより曇くもった陰気いんきな日だった。マントを引っかけながら家を出ると、以前に一度乗ったことのある魔法省の特別車が一台、前の庭でみんなを待っていた。
「パパが、またこんなのに乗れるようにしてくれて、よかったなあ」
ロンが、車の中で悠々ゆうゆうと手足を伸ばしながら感謝かんしゃした。台所の窓から手を振るビルとフラーに見送られ、車は滑すべるように「隠かくれ穴あな」を離れた。ロン、ハリー、ハーマイオニー、ジニーの全員が、広い後こう部ぶ座ざ席せきにゆったりと心地よく座った。
「慣れっこになってはいけないよ。これはただハリーのためなんだから」
ウィーズリーおじさんが振り返って言った。おじさんとおばさんは前の助手席に魔法省の運転手と一緒に座っていた。そこは必要に応じて、ちゃんと二人掛がけのソファーのような形に引き伸ばされていた。
「ハリーは、第一級セキュリティの資格しかくが与えられている。それに、『漏もれ鍋なべ』でも追加ついかの警けい護員ごいんが待っている」
ハリーは何も言わなかったが、闇やみ祓ばらいの大だい部ぶ隊たいに囲まれて買い物をするのは、気が進まなかった。「透とう明めいマント」をバックパックに詰め込んできていたし、ダンブルドアがそれで十分だと考えたのだから、魔法省にだってそれで十分なはずだと思った。ただし、あらためて考えてみると、魔法省がハリーの「マント」のことを知っているかどうかは、定さだかではなかった。
「さあ、着きました」
驚くほど短時間しか経たっていなかったが、運転手がそのときはじめて口をきいた。車はチャリング・クロス通りで速度を落とし、「漏もれ鍋なべ」の前で停とまった。
「ここでみなさんを待ちます。だいたいどのくらいかかりますか?」
「一、二時間だろう」ウィーズリーおじさんが答えた。「ああ、よかった。もう来ている!」
おじさんをまねて車の窓から外を覗のぞいたハリーは、心臓が小躍こおどりした。パブ「漏れ鍋」の外には、闇やみ祓ばらいたちではなく、巨大な黒髯くろひげの姿が待っていた。ホグワーツの森番、ルビウス・ハグリッドだ。長いビーバー皮のコートを着て、ハリーを見つけると、通りすがりのマグルたちがびっくり仰ぎょう天てんして見つめるのもおかまいなしに、にっこりと笑いかけた。