「俺たち全部が入ったら、ちいときついかもしれん」
ハグリッドはマダム・マルキンの店の外で立ち止まり、体を折り曲げて窓から覗のぞきながら言った。
「俺は外で見張ろう。ええか?」
そこで、ハリー、ロン、ハーマイオニーは一緒に小さな店内に入った。最初見たときは誰もいないように見えたが、ドアが背後で閉まったとたん、緑と青のスパンコールのついたドレスローブが掛かけてあるローブ掛けの向こう側から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「……お気づきでしょうが、母上、もう子供じゃないんだ。僕はひとりで買い物ぐらいできます」
チッチッと舌打したうちする音と、マダム・マルキンだとわかる声が聞こえた。
「あのね、坊ぼっちゃん、あなたのお母様のおっしゃるとおりですよ。もう誰も、一人でふらふら歩いちゃいけないわ。子供かどうかとは関係なく――」
「そのピン、ちゃんと見て打つんだ!」
蒼あお白じろい、顎あごの尖とがった顔にプラチナ・ブロンドの十代の青年が、ローブ掛けの後ろから現れた。裾すそと袖口そでぐちとに何本ものピンを光らせて、深ふか緑みどりの端正たんせいな一揃ひとそろいを着ている。青年は鏡の前に大股おおまたで歩いていき自分の姿を確かめていたが、やがて肩越しにハリー、ロン、ハーマイオニーの姿が映うつっているのに気づき、その薄うすいグレーの目を細くした。
「母上、何が臭いのか訝いぶかっておいででしたら、たったいま、『穢けがれた血』が入ってきましたよ」ドラコ・マルフォイが言った。
「そんな言葉は使ってほしくありませんね!」
ローブ掛けの後ろから、マダム・マルキンが巻まき尺じゃくと杖つえを手に急ぎ足で現れた。
「それに、私の店で杖を引っぱり出すのもお断ことわりです!」
ドアのほうをちらりと見たマダム・マルキンが、慌あわててつけ加えた。そこにハリーとロンが、二人とも杖つえを構かまえてマルフォイを狙ねらっているのが見えたからだ。
ハーマイオニーは二人の少し後ろに立って、「やめて、ねえ、そんな価値はないわ……」と囁ささやいていた。
「フン、学校の外で魔法を使う勇気なんかないくせに」マルフォイがせせら笑った。
「グレンジャー、目の痣あざは誰だれにやられた? そいつらに花でも贈おくりたいよ」
「いい加減かげんになさい!」
マダム・マルキンは厳きびしい口調でそう言うと、振り返って加勢かせいを求めた。
「奥様――どうか――」