「こっちの方向に行った」
ハリーは、鼻歌はなうたを歌っているハグリッドに聞こえないよう、できるだけ低い声で言った。
「行こう」
三人は左右に目を走らせながら、急ぎ足で店のショーウインドウやドアの前を通り過ぎた。やがてハーマイオニーが行く手を指差した。
「あれ、そうじゃない?」ハーマイオニーが小声で言った。「左に曲がった人」
「びっくりしたなぁ」ロンも小声で言った。
マルフォイが、あたりを見回してからすっと入り込んだ先が、「夜の闇ノクターン横よこ丁ちょう」だったからだ。
「早く。見失っちゃうよ」ハリーが足を速はやめた。
「足が見えちゃうわ!」
マントが踝くるぶしあたりでひらひらしていたので、ハーマイオニーが心配した。近ごろでは、三人そろってマントに隠かくれるのはかなり難むずかしくなっていた。
「かまわないから」ハリーがいらいらしながら言った。
「とにかく急いで!」
しかし、闇やみの魔ま術じゅつ専門せんもんの「夜の闇横丁」は、まったく人気ひとけがないように見えた。通りがかりに窓から覗のぞいても、どの店にも客の影はまったく見えない。危険で疑ぎ心しん暗あん鬼きのこんな時期に、闇の魔術に関する物を買うのは――少なくとも買うのを見られるのは――自みずから正体を明かすようなものなのだろうと、ハリーは思った。
ハーマイオニーがハリーの肘ひじを強くつねった。
「イタッ!」
「シーッ! あそこにいるわ」ハーマイオニーがハリーに耳打ちした。
三人はちょうど、「夜の闇横丁」でハリーが来たことのあるただ一軒いっけんの店の前にいた。ボージン・アンド・バークス、邪悪じゃあくな物を手広く扱っている店だ。髑髏どくろや古い瓶類びんるいのショーケースの間に、こちらに背を向けてドラコ・マルフォイが立っていた。ハリーがマルフォイ父ふ子しを避さけて隠かくれた、あの黒い大きなキャビネット棚だなの向こう側に、ようやく見える程度の姿だ。マルフォイの手の動きから察すると、さかんに話をしているらしい。猫背ねこぜで脂あぶらっこい髪かみの店主、ボージン氏がマルフォイと向き合っている。憤いきどおりと恐れの入り交じった、奇き妙みょうな表情だった。