「誰だれかに話してみろ」マルフォイが言った。「痛い目に遭あうぞ。フェンリール・グレイバックを知っているな? 僕の家族と親しい。ときどきここに寄って、おまえがこの問題に十分に取り組んでいるかどうかを確かめるぞ」
「そんな必要は――」
「それは僕が決める」マルフォイが言った。「さあ、もう行かなければ。それで、こっちを安全に保管ほかんするのを忘れるな。あれは、僕が必要になる」
「いまお持ちになってはいかがです?」
「そんなことはしないに決まっているだろう。ばかめが。そんなものを持って通りを歩いたら、どういう目で見られると思うんだ? とにかく売るな」
「もちろんですとも……若様わかさま」
ボージンは、ハリーが以前に見た、ルシウス・マルフォイに対するのと同じぐらい深々ふかぶかとお辞じ儀ぎした。
「誰にも言うなよ、ボージン。母上も含めてだ。わかったか?」
「もちろんです。もちろんです」ボージンは再びお辞儀しながら、ボソボソと言った。
次の瞬しゅん間かん、ドアの鈴が大きな音を立て、マルフォイが満足げに意い気き揚よう々ようと店から出てきた。ハリー、ロン、ハーマイオニーのすぐそばを通り過ぎたので、マントが膝ひざのあたりでまたひらひらするのを感じた。店の中で、ボージンは凍こおりついたように立っていた。ねっとりした笑いが消え、心配そうな表情だった。
「いったい何のことだ?」
ロンが「伸のび耳」を巻まき取りながら小声で言った。
「さあ」ハリーは必死で考えた。
「何かを直したがっていた……それに、何かを店に取り置きしたがっていた……『こっちを』って言ったとき、何を指差してたか、見えたか?」
「いや、あいつ、キャビネット棚だなの陰かげになってたから――」
「二人ともここにいて」ハーマイオニーが小声で言った。
「何をする気――?」