夏休み最後の一週間のほとんどを、ハリーは「夜の闇ノクターン横よこ丁ちょう」でのマルフォイの行動の意味を考えて過ごした。店を出たときのマルフォイの満足げな表情が、どうにも気がかりだった。マルフォイをあそこまで喜ばせることが、よい話であるはずがない。
ところが、ロンもハーマイオニーも、どうやらハリーほどにはマルフォイの行動に関心を持っていないらしいのが、ハリーを少し苛立いらだたせた。少なくとも二人は、二、三日経つとその話に飽あきてしまったようだった。
「ええ、ハリー、あれは怪しいって、そう言ったじゃない」ハーマイオニーがいらいら気味に言った。
ハーマイオニーは、フレッドとジョージの部屋の出窓でまどに腰掛こしかけ、両足を段ボールに載のせて、真新しい「上じょう級きゅうルーン文も字じ翻ほん訳やく法ほう」を読んでいたが、しぶしぶ本から目を上げた。
「でも、いろいろ解かい釈しゃくのしようがあるって、そういう結論じゃなかった?」
「『輝かがやきの手』を壊こわしちまったかもしれないし」
ロンは箒ほうきの尾の曲がった小枝をまっすぐに伸ばしながら、上の空で言った。
「マルフォイが持ってたあの萎しなびた手のこと、憶おぼえてるだろ?」
「だけど、あいつが『こっちを安全に保管するのを忘れるな』って言ったのはどうなんだ?」
ハリーは、この同じ質問を何度繰くり返したかわからない。
「ボージンが、壊れた物と同じのをもう一つ持っていて、マルフォイは両方ほしがっている。僕にはそう聞こえた」
「そう思うか?」ロンは、こんどは箒の柄えの埃ほこりを掻かき落とそうとしていた。
「ああ、そう思う」ハリーが言った。
ロンもハーマイオニーも反応しないので、ハリーが一人で話し続けた。
「マルフォイの父親はアズカバンだ。マルフォイが復ふく讐しゅうしたがってるとは思わないか?」
ロンが、目をパチクリしながら顔を上げた。
「マルフォイが? 復讐? 何ができるって言うんだ?」
「そこなんだ。僕にはわからない!」
ハリーはじりじりした。
「でも、何か企んでる。僕たち、それを真剣に考えるべきだと思う。あいつの父親は死し喰くい人びとだし、それに――」
ハリーは突然言葉を切って、口をあんぐり開け、ハーマイオニーの背後の窓を見つめた。驚くべき考えが閃ひらめいたのだ。